空力学基礎。グランドエフェクト(地面効果)とは?現行マシンに欠かせない空力効果

メカニズム(空力学・自動車構造)

皆さん今晩は

F1が無い時期は見るものが無くて暇になってしまいますよね。

私は過去のマシンを分析したり、空力学について知見を深めています。

レギュレーション規制によって、マシン製作に対する自由度がどんどんなくなってきていますが、その中でも少しでもダウンフォースを工夫して生み出そうとする、F1チームのメカニック・エンジニアの方々には本当に頭が上がりません。

レギュレーションが緩かった昔のマシンは、チームごとに個性が出ていて面白いですし、第一こんな構造よく思いつくなと感銘を受けるほどです。

前回の投稿でダウンフォースの発生原理について触れましたが、今回はグランドエフェクトついて詳しく説明していきたいと思います。

グランドエフェクトを発生させる仕組みは?

前回シャシー上部と下部(フロア)との圧力差で発生させるのがグランドエフェクトだと説明しましたが圧力差が大きくなればなるほど、グランドエフェクトによるダウンフォースは強力になっていきます。

極論を言ってしまうと、車高を落とせば落とすほど、フロアの底面積が狭くなりグランドエフェクトによるダウンフォースは強力になります。

ですが、そんな簡単にはいきません。2022年に問題になった

ポーパシング

の存在です。

ポーパシングとはマシンが小刻みに激しく波打つように上下動する現象を言います。

イルカが海面から飛び上がり再び海に潜る動作を繰り替えす様を例えたという説があります。

ポーパシングはなぜ起きてしまうのか、順序を追って説明します。

  1. ダウンフォースが発生することでサスペンションが縮み車高が下がる
  2. ディフューザーのキックアップポイント(空気の排出口)の空気が停滞
  3. ダウンフォース荷重減少
  4. サスペンションが伸び車高が上がる
  5. ディフューザーのキックアップポイントの流れが速くなる
  6. 負圧が復活しダウンフォース発生

と1~6の流れをが高速で繰り返されることでポーパシングは発生します。

しかし、ポーパシングが起きるということは、それだけダウンフォースの量が多いということを裏付けています。

2022年シーズンでは、メルセデスが最もポーパシングに苦しめられました。

なぜ苦しんだのかは後々触れたいと思います。

あれだけ目線が上下動しているはずなのに正確なドライビングを続けたドライバーたちは本当にすごいと思います。

グランドエフェクトに限らず、ダウンフォースを発生させるには、ある程度の空気量があることが前提になります。そもそも空気が無ければダウンフォースの様な空力というのは存在しないはずですから。

上記の説明も踏まえて解説すると

フロアの入口はトンネル(フェンス)のような構造になっておりそこに空気を大量に取り込みます。

前述の通りある程度の空気の量がないとダウンフォースは発生しないので、フロアの入口は面積を大きめにとっています。

そして最も重要なのがフロアの中央部分で、画像を見てわかる通り、面積が極端に狭くなっています。

この狭くなっている部分が、負圧による圧力差が最も大きな場所であり、グランドエフェクトによるダウンフォースが最も多い場所です。

そしてフロアの出口にかけて、面積を広く取りダウンフォースの影響によるディフューザー付近での空気の停滞を起こさないようにしています。

一つ気を付けたいところは、空気量が無いとダウンフォースが発生しませんが、多すぎるのも良くありません。

特にリアは空気量の影響を受けやすく、多すぎた場合リアサスペンションが簡単に縮んでしまい、ディフューザー辺りで空気が停滞してしまいポーパシングを引き起こしてしまいます。

それを防ぐための機構は存在していますが、それはまた後ほどお話しさせて頂きます。

メリット

グランドエフェクトによるダウンフォース発生のメリットは、フロントウイングのような物理的に空気を捻じ曲げて圧力差を作る必要がないということです。

つまりグランドエフェクトは、圧力差によってダウンフォースが発生しているだけなので、空気抵抗が増加しにくいです。

空気抵抗が無くなればトップスピードの増進にも繋がるだけでなく、速度域が高くなればなるほどダウンフォースの量が増えるので、コーナリング性能向上という両立も可能です。

歴史

グランドエフェクトカーで最初に成功を収めたのはロータス78でした。

当時ロータスのチームボスであるコーリンチャップマンは、トップスピードが伸びない自分たちのマシンに悩んでいましたが、ベルヌーイの定理を応用しロータス78を誕生させました。

グランドエフェクトを使ったロータス78は、当時としては革命的なマシンであり、抜群のコーナリング性能を発揮し見事ドライバーのマリオ・アンドレッティはチャンピオンに輝きました。

しかし当初の目標だった、トップスピードの向上は実現することができませんでした。

なぜかというと、グランドエフェクトによってダウンフォースは発生していたものの、発生場所がフロント側に偏っていたからです。

フロントが強かったため、コーナリング性能は群を抜いていましたが、リアのダウンフォースが少なかったがために、トラクションのかかりが悪かったのです。

結局チームはリアダウンフォースの少なさを補うために大きめのリアウイングを取り付けることになりました。

それでもタイトルが獲れたのは、何度も言うようにコーナリング性能が抜群に良かったからです。

グランドエフェクトはただ発生させればいいという訳ではなく、どこで発生されるのが良いかという、マシンバランスとの兼ね合いが必要になってきます。

このロータス78を皮切りに80年代前半には様々なグランドエフェクトカーが誕生しましたが、1982年に重大な事故が起きてしまいました。

グランドエフェクトカーは速いが故に危険だったのです。

なぜ危険なのかというと、グランドエフェクトカーでのダウンフォース生成は真空状態に近くなってしまうということです。

例えば、張り付いているもの(吸盤など)を勢いよく剥がそうとすると剥がした反動で後ろに反ってしまいますよね。

想像してみてください。真空状態に近い状態で走っているマシンが段差に乗り上げてしまったらどうなるか・・・

マシンはダウンフォースは一気に失って宙を舞い、ハンドル操作が利かなくなり、速度域が高い場合最悪な事故になりかねません。

グランドエフェクトカーによる事故は1982年の事故だけで数件起きてしまい1983年にフラットボトム規定が定められ、グランドエフェクトカーの使用は禁止されました。

何故再注目されたのか?

グランドエフェクトカーは非常に危険だから禁止となったはずなのに、2022年に再び導入されました。一体何故なのか?

最もな理由として接近戦を可能にしてオーバーテイクの促進を狙ったためです。

以前のレギュレーションのマシンでは、マシン後方で発生する乱気流が強すぎてオーバーテイクを困難なものにしていました。

近づきすぎるとマシンがどのような挙動を示すか分からない為、非常に危険だったのです。

そこで2022年のレギュレーションでは、グランドエフェクトを導入、強力なダウンフォースを発生させていた空力パーツを取っ払って、全体的なダウンフォース量を減らしてでも、接近戦を増やしてオーバーテイクの促進を狙ったわけです。

それにしても40年以上前の技術が、こうして現代で再び注目を受けたことは、非常に興味深いことだと思います。

次回はグランドエフェクトの効果を増加する空力効果について説明していきたいと思います。

今回もこの記事を読んでいただきありがとうございました。

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