カナダではメルセデスのラッセルが今シーズン初優勝を記録。
予選は接戦だったものの、決勝では序盤でフェルスタッペンを引き離すと危なげないレース運びで今季初優勝です。
それを可能にしたのはメルセデスに入ったあるアップデートではないかと考えています。
今回はサスペンションと荷重移動の関係について考察していきたいと思います。
リア周りの改良でアンチスクワット効果を実現

自動車の挙動のセオリーとして、加速をする際にはリアが沈み込む(スクワット)。
そしてブレーキを踏むと荷重が前に移動しフロントが沈み込む(ダイブ)。
現行のレギュレーション下においてはグランドエフェクトカーが採用されており、フロアの空力処理、空力効率が重要視されています。
グランドエフェクトは車体の上下間の圧力差によって発生させている。
車体上部での空気の流れが止まる(ストール)の心配がありませんが問題はリア側。
セオリーであれば車体の圧力差をより生じさせるために車高をできる限り低くすることが良しとされています。
しかし、現行マシンが発生させるダウンフォース量はかなり多く、車高が低いと簡単にボトミング(底打ち)を引き起こしてしまい、ダウンフォースを逃がしてしまう。
結果的に高速コーナーにおけるパフォーマンス低下を招くことになります。
ではどうすればよいのか?
ここで使う技術がアンチダイブ・アンチスクワットです。
F1マシンではダブルウィッシュボーン式のサスペンションが採用されています。

アンチダイブはフロントダブルウィッシュボーンの前側シャフトを後ろのシャフトよりも高く配置することで、ブレーキング時の沈み込みを抑制してくれる。
フロントでの底打ち(バウンジング)を防いでくれます。
写真はRB21のフロントサスペンション機構。
アッパーウィッシュボーンの前は高く、そして後ろは低くなっていることが分かるでしょう。
アンチスクワットその逆で。リアダブルウィッシュボーンの後ろ側シャフトを前側のシャフトよりも高く配置することで、加速時の沈み込みを抑制してくれる。
リアでの底打ち(ポーパシング)を防いでくれます。
特にアンチスクワットにはもう一つの効果があり、ディフューザーの面積の変化も防いでくれます。
スクワットしてしまうと、車高が低くなることでディフューザーの面積が圧迫されてしまうのです。
確かにフロアが路面と近くなることで、より強力な負圧を生み出せるというメリットはありますが、その分ポーパシングを起こすリスクも高まります。
折角、強力なダウンフォースを生み出せてもそれを逃がしてしまっては意味が無いのです。

メルセデスが導入してきたのは後者のアンチスクワットに対応したサスペンションです。
こちらはアンチダイブとは逆で、アッパーウィッシュボーンの後ろを高くし、前側のロッドを後ろよりも低く設置するのです。
アンチスクワット機構を導入したから良いという訳ではなく、ディフューザーの位置にも注意が必要です。
F12025年シーズンは中盤に突入、マシン分析とともにチームの現状を探る。 – アルボンノート
こちらの投稿でも触れたのですが、ディフューザーの位置は、マシン後方であるほど良いと話しました。
特にアンチスクワット機能を採用しているサスペンションレイアウトであれば、車体の沈み込みを軽減できるので、ディフューザーで引き起こすダウンフォースをコントロールすることができるのです。
フロアの中央部からディフューザー機構を始めてしまうと、床面積のコントロールにおいて難しくなってしまい今度はボトミングを引き起こす直接的な原因にもなってきます。
上記の投稿をご覧いただければ分かるのですが、ボトミングを引き起こしている典型的なチームがフェラーリです。
高速域でのパフォーマンスが芳しくなく、マクラーレンを始めとするトップチームに対して勝負になっていません。
市販車からの考察(ポルシェ)
これまではF1マシンのサスペンション機構からアンチスクワットによるリアの考察を行ってきました。
サスペンションとアンチスクワットの話からかけ離れてしまいますが、市販車の場合は荷重移動によってより良い加速とコーナリングを実現します。
そして今回、荷重移動を説明するにあたって、もってこいの車種があります。
その市販車とはポルシェです。

今回使用するのは、991型GT2RSの1/18サイズです。
こういった時の1/18サイズのミニカーは研究材料、説明に使用する際の模型として非常に役立ちます。
ポルシェといえばRR(リアエンジン・リアドライブ)レイアウトを採用していることで知られています。

リアにエンジンがあることで駆動輪(リア)に荷重が掛かりやすくなる。
これによってトラクションを確保しストレートでの強烈な加速を実現します。
しかしトラクションの掛かりは良いものの、車重がリアに寄っているため、高速域になるとフロントがウイリー気味になり接地感が無くなってくる。
ウイリー気味ということはフロント側のフロア高がリアのフロア高よりも高いことを意味しています。
この時点でフロント側の上下の圧力差が少なくなる。
フロアの前後で圧力差が生じ、フロントが高圧になりリアが低圧。
このまま走行を続けると、フロント側の高圧がリアを押し上げるような形になり最悪ひっくり返ってしまう極めて危険な状態です。
しかしコーナリングにおいてはポルシェほど理想的な車はありません。

何故ならこれは先ほど説明した通り、ブレーキングの際には荷重が前に移動します。
ポルシェはこれを利用して、コーナリング時の車重比が理想的な比率になります。
ポルシェの車作りは、実によく考えられた構造になっていると感心するばかりです。
F1マシンのように車高変化を抑えてより良い空力効率を求める構造とは正反対です。
しかしポルシェに限らず多くの市販車では、姿勢変化を積極的に生かして、空力効率の向上を目指すという形が多くなっています。
F1マシンとは違って市販車はいじれる場所に制限があります。
コメント