前回から現行レギュレーションマシンの分析を行っております。
F12025年シーズン開幕前マシン分析、現行レギュレーション最終年、正解を探る。前編 – アルボンノート
グランドエフェクトマシンにおいても空力はフロントから、が基本。
フロントの空力が整っていなければ、当然後方の気流も乱れがちになります。
今回の分析はマシンサイドを中心に行っていきます。
この部分は最も開発の余地があったエリアであり、各チームで取ったアプローチはそれぞれ違っております。
開発の余地があったマシンサイド(サイドポッド)
現行レギュレーションにおいて一番開発の余地があったとされているマシンサイド。
この部分はチーム毎で最も個性が出る部分です。
フロントウイングの話に戻すと、前回のレギュレーションではバージボードが存在していたため、フロントウングで跳ね上げた気流をこのバージボードが無理矢理抑えつけてくれていた。
現行レギュレーションでは、後方の気流の乱れを嫌いバージボードは撤去された。
その代わりの仕事をサイドポッドが引き受けなければならず、マシンサイドにおけるダウンフォース量は大幅に減少することになりました。
その影響もあり2022年のマシンはアンダーステアが強い傾向にありました。

メルセデスは2022年型マシンW13に採用してきた”ゼロポッド”は他チームと全く違った機構を登場させ一気に話題を攫っていきました。
しかし、シーズンが始まると酷いポーパシング、ドラッグ過多に悩まされ、連覇を続けてきたコンストラクターズタイトルをレッドブルに明け渡す結果となってしまいました。
なぜ失敗に終わったのか?
前述の通りサイドポッドがバージボードの役割を果たさなければいけないのに、W13(W14)にはそれが一切見当たらない。
跳ね上げられっぱなしの気流は直線的に来る気流と衝突しそれがドラッグになってしまいました。
サイドポッドが無かったことによりリアタイヤに当たる空気量が他のチームよりも多かったことが、ドラッグ過多による原因でもあります。
しかし、リアタイヤにも当たる気流の量が多かった為、ダウンフォースの最大量はどのチームよりも多かったため、セッティングさえ決まれば好結果になることが少なからずありました。
しかしそのスイートスポット(セッティングが決まる領域)自体が狭かったのですが・・・

フェラーリはF1-75でサイドポッドの横幅を広く取った”バスタブ”型を採用。
サイドポッド上部に窪みを付けてそこに気流を通そうという狙いがありました。
横広なのでドラッグが多くなるのではないかと当時は考えられていましたが、このサイドポッド自体で生じるドラッグは少なかったようです。
メルセデスの様にリアタイヤに気流直撃の方がハイドラッグということです。
しかし、そのサイドポッド形状をいち早く変更してきたのは2023年のレッドブルRB19。

サイドポッドの下側を張り出した”アンダーバイト”方式を採用。
これにより、フロントウイングから跳ね上げられた気流をより前方で抑えつけ、サイドポッドに流せる空気量をより多く確保することが可能になった。
しかし、アンダーバイト方式と言っても、跳ね上げられた気流を抑える量にはどうしても限界がある。
そこでマクラーレンが2024年型マシンMCL38に採用したのが、

こちらのポッドウイングでした。
開幕仕様であるこちらは、上部の張り出しこそ控えめでしたが、フロントウイングから跳ね上げられた気流をより多く抑えられることに成功。
サイドポッドに流せる気流は増え、マシンサイドのダウンフォース確保に一役買いました。

更にポッドウイングの翼端は縦渦を発生させ、マシンサイドに向けて気流を押し下げてくれる働きをしています。
フロービズを見てみると、マシン上段には塗料が付いておらず、サイドポッド下部に狙ったとおりに流せていることが分かります。
インテークの部分の塗料を見てみると、開口部にも塗料が流れていることが分かります。
インテーク付近は面積が狭く、高圧になっている周辺の空気に押されてインテークに向けて流れていることが分かります。
これによって冷却も保証されています。

対してレッドブルが取ってきたアプローチはゼロインテーク(ゼロポッド)。
マクラーレンとは似通った形ですが、大きな違いはンテークの面積。
レッドブルは狭いサイドポッドインテークのすぐ下に、縦長のインテークを設けてきました。

レッドブルのアンダーバイト採用によって、多くのチームが2024年仕様に採用してきましたが、その仕様は最早時代遅れで、マクラーレンと同様の機構を採用したチームが次々に速さを手に入れていきました。
サイドポッド横とフロアエッジ
サイドポッドの前部分の説明の次は側面に注目していきたいと思います。
グランドエフェクトマシンになり何とかダウンフォースをより多く得ようと各チームが工夫を凝らすというのが、レギュレーション開始当初の流れでした。
しかし、ここで問題が発生します。

”ポーパシング”です。
ポーパシングとは簡単に言うとマシン底部が路面に底打ちをし跳ね上がるという動きです。
これが目にも見えない速度で行われていきます。
イルカが水面から跳ね上がり頭部から再び水面に戻っていく動きを例えた様です。
類義語としてバウンジングやボトミングという用語がありますが私は以下の様に区別しています。
バウンジングはマシンのフロント部分の底打ち。
私は野球をやっていたので野球で例えますが、ゴロを捕るとき、ボールは自分の目の前で跳ねます。
手前で跳ねるという意味からバウンジングはマシンのフロント部分で跳ねるという意味で解釈しています。
ボトミングはマシンの中間部分(フロア部分)の底打ち。
そしてポーパシングはマシンのリア(ディフューザー)部分による底打ち。
先ほどイルカの動きが由来と話しましたが、リアが底打ちをすることで逆にフロントは上がるような格好になります。

話は逸れてしまいましたが、ポーパシング対策の一環として、打ち出したのが、フロアエッジから空気を引き抜くという形になりました。
そもそもポーパシングはダウンフォースによってサスペンションが縮み、車高が下がりすぎてしまうことで、フロア部分でストール(気流の流れが遮断されてしまうこと)を引き起こしてしまっているので起こります。
つまりリアに流す空気量を減らし、一部をフロアサイドに流してバランスを取ろうとしたということです。
シーズン中にはフロアの最低高を高くするなどの物理的な対策も行われました。
しかし、元々がダウンフォース不足でアンダーを誘発していたので、できるだけ気流を抜きたくない。
レギュレーション初年度に見られた形は、小さな開口部があった程度でした。
その開口部をどの位置に持っていくかが当時の焦点で、前に置きすぎたチームはリアに流れるダウンフォースが少なくなってしまい、グランドエフェクトによるダウンフォースが不足する事態に陥りました。

そんな中でもこの部分にいち早く着手したのはやはりレッドブルで、横長かつZカットの切れ込みを入れたフロアエッジをいち早く取り入れていきました。
ただ気流を抜こうとするのではなく、抜いた気流を使ってアウトウォッシュを作ろうとしたのです。
レッドブルの革新的な開発に各チームが続々と続こうとするも、昨シーズンを見ている限りでは未だに迷走しているチームもあり、開発が難しい部分ではあると思います。
レッドブルはこのほかにもサスペンションを柔らかくすることで、車高変化に対して柔軟なマシンに仕上げてきたことで、他チームよりもポーパシングによる影響が少ないことは明らかでした。

次にエッジウイングとサイドポッドのアンダーカットについてです。
エッジウイングはフロントタイヤ後方に位置するパーツであり、前方から流れてきた気流をアウトウォッシュにし、後方に乱流を飛ばさない、一番はリアタイヤに乱流を直撃させないことが目的になります。
後述のサイドポッドアンダーカットにも乱流が行き届かないように防ぐという役割も担っています。
エッジウイングの理想となる位置はフロントタイヤに対してできるだけ近い位置にある必要があります。
後ろ過ぎると、アウトウォッシュが作れてもリアタイヤに直撃する可能性があるので。
分かりづらいですが、上記の3チームは全体的にフロントタイヤとエッジウイングの距離感は近いです。
中でもメルセデスのエッジウイングは横長で、他の2チームよりもフロントタイヤに近いことが分かります。

次にアンダーカットを見ていきます。
アンダーカットはフロントウイングから跳ね上げられた気流がサイドに流れていきます。
フロアサイドのシーリングにもつながる大事な部分です。
シーリングが甘いとマシンサイドから気流が漏れグランドエフェクトの効果減少、マシンが不安定になってしまいます。
理想的な空気の流し方は緩く下げる。
写真のレッドブルRB19は非常に綺麗で理想的な流れ方をしています。

このレギュレーションで、アンダーカットにの形状で苦戦していたと感じるの地はフェラーリ。
写真のSF-23はアンダーカット前部にこぶができてしまっている。
サイドインパクトストラクチャー(側面衝撃吸収構造)の突き出しによるものですが、レッドブルに比べて明らかに気流の流れを邪魔してしまっています。
アンダーカットの気流の流れもレッドブルに比べると、急角度をしており綺麗に流せるといった形ではありません。
この当時のフェラーリはアップデートが失敗続きで迷走していた時期です。

アストンマーティンAMR23のアンダーカット下は面積が広く、ダブルディフューザーのような形状をしていましたが、アンダーカット下の面積は広過ぎるとシーリングが弱くなってしまう欠点があります。
上の写真のレッドブルのマシンはアンダーカット下の面積が狭く、フロアエッジで発生するアウトウォッシュを上手く使いシーリングを強化しています。
今回はマシンの中間部分について分析していきました。
開発の余地が最もあり、個性が出るだけにそれだけ難しい部分でもあります。
今年のマシンでは各チームがどのように仕上げてくるかが注目です。
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