F1空力学基礎。温度や標高による空気密度の違いがマシンに与える影響とは?

メカニズム(空力学・自動車構造)

こんばんは

前回速度域の違いによって、空気の働き方が違うということを説明しました。

ですが空気の働き方が変わる条件は空気の速度だけではありません。

温度や湿度、標高の高さによって空気の働き方や量に違いが生じてきます。

最初に結論を言わせて頂くと

標高が高い時は、酸素濃度が薄いので空気の密度は低い

平地の場合は、標高が高い場所に比べると空気の密度は高いですが、ある条件によって密度は大きく違ってきます。

温度です。

気温が高いとき、空気は金属と同じように熱膨張します。

気温が高い時は熱膨張の影響により空気の密度は低く

逆に気温が低い時は空気が収縮し密度が高くなります。

密度の違いによる影響

先ほどは温度や標高等による条件の違いについて説明しました。

では、ここからは条件の違いによってどのように影響がでるのか?

メリットデメリットで説明をしたいと思います。

空気の温度が高温の場合

メリット

  • 外気温が高温の場合、路面温度も高い場合が多いのでタイヤが直ぐに温まる。
  • 空気の密度が低いのでエンジン負荷が少ない

デメリット

  • 空気の密度が低い分、エンジンに取り込める空気が少なくエンジン性能をフルに生かせない
  • 空気の密度が低いので得られるダウンフォースが少ない
  • 空気量が少ないので冷却効率が悪い

空気の温度が低い場合

メリット

  • 空気の密度が高いので、エンジンに取り込める空気が多くエンジン性能をフルに生かすことができる
  • 空気の密度が高いので得られるダウンフォース量が多い
  • 空気量が多いので冷却効率は良い

デメリット

  • 外気温が低い場合、路面温度が低い場合が多いので、タイヤが温まりにくくグリップが低い
  • エンジン性能がフルに生かせる分負荷は高まる

標高が高い場合

メリット

  • 気圧が低く空気は薄いがその分空気抵抗が少なくなるので、最高速が伸びる
  • エンジンに取り込める空気量が少ないのでエンジン負荷が少ない

デメリット

  • 低気圧で空気が薄いのでダウンフォースが少ない
  • エンジン負荷は低いが酸素濃度が薄いのでパワーダウンする
  • 空気量が少ないので冷却効率が悪い

気候条件によるメリットデメリットを簡単にまとめてみましたが

高温や標高が高い場所では、酸素濃度(空気)が薄いというのが共通しており、冷却効率の悪さや、エンジンパワーの低下が共通のデメリットです。

これに加えて雨が降ると湿気という要素も加わり、空気中の水分量が増えて、これもエンジンパワーの低下の一因にもなります。

F1チームがとる対策

先述の通り気温と標高がマシンやドライバーに及ぼす影響はとても多いです。

では、その中でチームはどのような対策を施しているのでしょうか?

2023年は特に気候条件よって体調を崩すドライバーが多くいたので

気温が高い場合と標高の高い場合の二つに分けて説明します。

気温が高い場合(シンガポール・カタールなど)

マシン

冷却効率が悪いのでエンジンの排熱効率をよくするためにルーバー(シャークルーバー)を設ける、又は大きくする

ドライバー

気候の変化に慣れるために早めに現地入りをする。

サウナスーツを着込んでのトレーニングを行い暑さに強くなっておく

特にシンガポールはF1カレンダー中最も過酷なグランプリで知られいます。

開催時期は9月下旬から10月初めにかけてですが、夜になっても気温が30℃を超えることも珍しくなく、一部では耐久レースと呼ばれています。

決勝レースを走り切るだけで体重が3㎏も減るそうです。

昨年から復活したカタールでは、レース終了後にコックピットから自力で立ち上がれないドライバー、嘔吐をしてしまったり、降りてもぐったりしている選手がいたのも印象的だったと思います。

標高が高い場合(特にエルマノス・ロドリゲスの場合)

マシン

フロントウイングのフラップを立てダウンフォースレベルを上げる

特にエルマノス・ロドリゲスの場合は、標高2285m地点にあるサーキットで、海抜0m地点よりも酸素濃度が22%も薄いのでフラップの角度は最大限付けます。

ブレーキローターに無数の穴を開ける(おおよそ1000カ所)

引用元giorgio piola

ブレーキダクトの面積を広げる

エルマノス・ロドリゲスは空気が薄く冷却効率が悪いです。その影響はエンジンだけでなくブレーキ関係にもでてきます。フルブレーキが多くブレーキにかかる負荷も高いコースなので、空力効率を犠牲にしてでもダクトの面積を広げて冷却効率の向上を促します。

中には、ダクト付近に少しでもダウンフォースを稼ごうとする機構を取り付けているチームもいます。

ドライバー

標高が高く空気が薄いので早めに現地入りし慣れる。

高温の時の場合ととる対策は一緒ですが、標高が高い場合気圧の影響を受けて最悪高山病を発症する恐れがあります。

なので標高が高い場合の時でも早めに現地入りし空気の薄さに慣れておこうということです。

ドライバーは座って運転しているだけではない

モータースポーツをよく知らない方たちからしたら、レースというものをどうとらえているのでしょうか?

レースはコックピットに座って数時間運転していればいいんだから楽だよね、と思われている方

座って運転しているだけだから、体に影響なんて出るわけないだろうと考える方もなかにはいらっしゃるかと思いますが決してそんなことはないと思います。

まず、F1の場合、コックピットがそのマシンに乗るドライバーに合わせて作られており、必要最低限の居住空間しかないので窮屈極まりないと思います。

そして写真がドライバーのコクピットの内部ですが、果たしてこの態勢がただ座っているだけに見えますでしょうか?

更に暑かろうが寒かろうが、レーシングスーツとヘルメットは常備しなければならず、暑いからと言って途中で脱ぐことも許されません。

むしろその行為は自殺行為に等しく危険極まりありません。

そして、クラッシュすればマシンに自分の身を委ねなくてはなりません。

F1では過去に死亡事故や悲惨な事故が多々ありましたが、近年のマシンでは安全性能の大幅な向上(見た目には賛否有りますが)により激しいクラッシュをしても無傷というケースがかなり多くなりました。

とはいえ常時300km/hのスピードを出して走り続けるドライバーは常に危険と隣り合わせですし、Gによる身体的負荷、過酷な気候条件では体調不良者が続出することもあります。

最後に持論ではありますがF1こそが最も過酷なスポーツではないでしょうか?

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