インウォッシュ(内向き渦流れ)とアウトウォッシュ(外向き渦流れ)

メカニズム(空力学・自動車構造)

これまでに触れてきた空気の流れは

ベルヌーイの定理

ベンチュリ効果

といったF1の空力を語るにおいて初歩的なお話をしてきました。

F1マシンの周りを流れる空気はとても複雑です。

直線的な空気の働きを利用した機構はもちろんのこと、渦流れを使ってダウンフォースを生成したり、空気の整流を目的にした渦流れも使っています。

もちろんそれに合わせて非常に複雑な理論や機構を設けています。

レッドブルのマシンを見ていると、複雑な機構を設けるのは、他チームに模倣されるのを防ぐという目的もあるのではないのか?というのが持論です。

今回は複雑な気流流れの中でも、渦を使った気流流れについて着目していきたいと思います。

インウォッシュ

これまでに空力学にあまり触れてこなかった方たちにとってまたいきなり訳の分からない用語がでてきました。

インウォッシュだからマシンの内側に空気を流すことをいうのか?

違います。

インウォッシュとは内向きの渦流れの事を言います。

昨年までは、利用はされていたもののあまり注目されなかった流れですが、2023年ではフロアエッジでこのインウォッシュを積極的に使われていましたことにより注目され始めました。。

写真はRB19のフロアエッジですが、Zカットの切れ込みが入っているのが分かると思います。

このZカットの切れ込みを入れることによってインウォッシュを発生させているのです。

インウォッシュの力でフロアをシーリング(路面側に抑え込むこと)し、フロアの高さを変えないようにすることで、負圧の量を安定させようとしている訳です。

昨年までのフロアエッジから排出される空気は、フロアに空気が溜まりすぎると(いわゆるダウンフォースが多い状態)ポーパシングを起こす原因になるので、それを防ぐために排出するというのがメインでしたが

2023年型のマシンでは排出された空気を積極的に利用するという形に進化しました。

しかし、インウォッシュをそのままマシンの後ろに流してしまうと、タイヤなどに直撃しマシンが不安定になるので

写真のRB19のようにサイドポッドの後端を伸ばして、インウォッシュを弱めて整流しようというのが2023年のマシンではトレンドになりました。

次の写真はSF23のようにサイドポッド後端を伸ばさなかった場合の気流を可視化したものになります。

インウォッシュの処理する機構が一切ないのでマシン後部まで流れが続き、最終的にリアタイヤに直撃してしまっています。

2023年シーズンのフェラーリは遅くはないが安定性に欠ける

そんなマシンだったと自分は思っています。

マシンの挙動が不安定だった理由の一つとしてはやはり写真の通りインウォッシュの空力処理をせずに駆動輪のタイヤに直撃させていたということではないでしょうか?

もちろん不安定な理由はそれだけではありませんが

アウトウォッシュ

アウトウォッシュはインウォッシュの逆で

外向きの渦流れです

要するにマシンから離れていくように渦を巻きます。

アウトウォッシュはフロントウイングの翼端板などに利用され

すぐ後ろのタイヤに直接空気をぶつけないようにしています。

タイヤに直接空気が当たってしまうと、空気抵抗が増えるだけではなく、マシン後部に乱流を流すことになってしまいます。

要するにアウトウォッシュの役割は、空気を当てたくない部分やパーツに空気を当てないように外向きの渦流れを作って遠ざけている訳です。

アウトウォッシュが生む問題点

アウトウォッシュはタイヤなど空気を当てたくないところにぶつけないように流しているということは理解頂けたでしょうか?

しかし、このアウトウォッシュが別の問題を生み出してしまっているのです。

以前のレギュレーションでは乱気流が多すぎて接近戦を難しいものにしていた、とお話ししたと思います。

実はその問題が再び浮き彫りになってきているのです。

2023年シーズンも各チーム至る所にアップデートを入れてきましたが、写真の様にリアウイングの翼端板の接続部に切れ込みを入れて、空力効率を良くしようとするアップデートが随所に見られました。

翼端板付近の緑色の線(空気の流れ)を見てください。

アウトウォッシュができていませんか?

アップデートによって空力効率は確かに良くなりましたが、アウトウォッシュによる後方の乱気流が増え、2022年マシンに比べて接近戦が難しくなっています。

2023年型のマシンが生み出す乱気流の量は前年比で10%も上昇しているというデータもあります。

写真はマシン後部の気流の流れを可視化したものになりますがいかがでしょうか?

前方から

フロントウイングによって跳ね上げられた空気

フロントタイヤにぶつかって乱れた空気

フロアエッジから排出された空気

乱れた空気がリアタイヤに直撃して更に乱れた空気

ディフューザーから排出された空気

以前のレギュレーションのマシンに比べれば乱れは少なくなってはいるものの

これだけ乱れた空気がすぐ後ろのマシンに直撃している訳です。

やはり空力学は複雑

私自身も独学で空力を学び始めた時は、前から後ろに流れている空気の力しか考えていませんでしたが、今回のように渦を巻いている空気も利用していることを知った時は目から鱗でした。

しかしそれと同時にF1の空力がここまで複雑なんだということを知り愕然としました。

以前もお話ししましたが、F1の技術をいきなり全て知ろうとすると途中で挫折するくらい複雑で難しいものなので、まずは簡単で基本的なことから

そして何より大事なことは楽しく学ぶことです。

亀の歩みでもいいので完全に自分のものにできるくらい理解を深めていくことが大事なんじゃないでしょうか?

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