2025年シーズンのマシン発表まで1週間を切りました。
現在現行マシンの分析を行っていますが、今回で最終章です。
開発領域は少ない現行マシンですが、掘り下げていくとかなり深いものとなっています。
説明不足な点も出ているかも知れませんが、できる限り掘り下げて参ります。
それでも不足する場合は過去の投稿のマシン分析でご確認いただければと思います。
それでは今回はリア周りの分析に掛かりたいと思います。
サイドポッド周り後端、エンジンカウル
では最初に分析していくのはサイドポッド後端です。
サイドポッド後端の気流流れが乱れてしまうと、リアに向かう気流自体も乱れ、ダウンフォースの確保ができない。

特に2023年のフェラーリSF-23が悪いお手本です。
- サイドポッド上部から流れてきた気流
- アンダーカットから流れてきた気流
- フロアエッジから流れてきた気流
速度と流れる方向が違う気流が1点で衝突し、リアに向けて流れる気流が乱れている。
この年のフェラーリは、硬すぎるサスセッティングも相まって、リアタイヤの摩耗が異常に早い、予選時は攻めたドライビングをすると、リアが横力に耐え切れずホイールスピンしコースアウト。
最悪クラッシュという場面が度々みられていました。

しかし、2024年型マシンSF-24では、フロアエッジから流れる気流とアンダーカット後端には、崖のような段差ができており、互いの空気が干渉しないような構造になった。
リアに向けて流れる気流はそれぞれ独立し、リアに向けて綺麗な気流を運んでくれる。

ウィリアムズFW46が最初に採用した、スライダー形状。
他のマシンの後端のスライダー形状は、緩やかに下がっていますが、ウィリアムズの場合は急傾斜になっています。
これにより、窪みができ、強烈な負圧を発生させています。
ストレートのトップスピードが最も良く伸びていたウィリアムズですが、

中盤戦に導入したポッドウイングでマシン特性が大きく変わりました。
フロントダウンフォース増によりコーナリング性能が上昇しましたが、それと引き換えに武器であったトップスピードも失うことになってしまいました。
しかも、マシンセッティングにおけるスイートスポットが狭まったようにも見え、セッティングが決まらないと曲がらないという、見方によってはダウングレードしてしまったようにも思えます。
対して、ストレートの伸びが悪かったマクラーレンは、スライダーを導入したことにより、ストレートスピードの改善に成功、ストレートでの出遅れが若干解消しました。
サイドポッド上部(エンジンカウル)について見ていきます。

レギュレーション当初の特徴的なサイドポッドは前回も紹介した通り、フェラーリの”バスタブ”型と、メルセデスの”ゼロポッド”。
この写真を見ると、フェラーリはサイドポッド上部に気流を流せるよう、窪みが付いています。
しかし、窪みの途中にルーバーがある。
ルーバーから排出される気流を低圧にし、窪みに流れる気流を這わせようとする狙いですが、違う働きの気流を流すということは、その分気流の乱れが生じるリスクがあるので、この構造は得策とはいえません。
更にハロの側面にはSダクトと、これもまた速度の違う気流を流すことに繋がってしまっています。

レッドブルRB20で登場したキャノンデッキです。
フェラーリのようにサイドポッド上部にはルーバーが見当たらず、ルーバーは流路の邪魔をしないような場所に取り付けられています。

キャノンデッキの上部にも窪みがあり、リアウイングに向かって緩やかに下がっている。

キャノンデッキの出口はチムニーダクトのような形状をしており、排出された排気をビームウイングに向けてぶつけている。
これにより気流の失速を狙い、マシン上部とディフューザーとの圧力差を生じさせてよりダウンフォースを稼ごうという狙いです。
ダサいと言われていたキャノンデッキですが、ダウンフォース確保の為にありとあらゆる手段を使っています。
リアウイング、ビームウイング
次にリアウイングです。
前回のレギュレーションで使用されていた直線的なリアウイングから、新レギュレーションでは丸みを帯びたリアウイングに変更。

レギュレーション開始当初は、丸みを帯びて繋がっていた翼端が

昨年では、翼端の一部を切り欠き状にし、空力効率の向上が図られました。

更にダウンフォース削減の為にロワフラップの前後長にも変化を付けることで、更にロードラッグを実現。
上の写真はフェラーリSF-24のモナコ仕様、下の写真はイタリア仕様。
当然コース特性は対照的なので、フラップの角度には雲泥の差がありますが、ロワフラップの前後長には明らかな違いがあります。
ロワフラップは前後差だけでなく、湾曲の大きさにも違いが出ています。

ロードラッグのコースではできる限り直線的な構造にしドラッグ削減を、モナコのような低速コースでは、低速域でもダウンフォースが確保できるように工夫がなされています。
ストレートが弱点だったマクラーレンはリアにもフレキシブル機構を採用。
アゼルバイジャンでは、弱点を感じさせない走りでピアストリが優勝しましたが、レース後各チームからの抗議によって使用は実質禁止となりました。

メルセデスはアッパーフラップの翼端の接続に工夫がされています。
翼端の切り欠きの面積が他のチームよりも広くより強烈なアウトウォッシュを発生させます。
翼端から中央部にかけて包み込むような形状になっており、より少ない面積のフラップを使用することができ、空力効率の向上に成功しました。

レッドブルはイタリアのような最高速重視の専用ウイングを持っておらず、僅か3種類のウイングで対応していました。
リアダウンフォースはリアウイングのセッティングとも密な関係にあるので、リアウイングを突貫工事で対応しようというのは無理がありました。
さらに、2013年以降禁止されていたビームウイングの復活。

このビームウイングによって、ディフューザーから流れる低圧の気流との圧力差を発生させてリアダウンフォースをより強める働きがある。
ビームウイングは、コースによって様々な変化を見せました。
特にモンツァの様に極限までダウンフォースを削らなければいけない場合は、ビームウイングを1枚で対応しているチームもあります。
ウイングの剛性不足が不安視されているチームは1枚を従来の使い方をし、もう一枚を剛性の確保を目的に使用しているチームもありました。
その効果を向上させる機構は前述のエンジンカウルで、そこから抜けてくる排気を直接ビームウイングにぶつけています。
結論リアダウンフォースが増せば、それだけトラクションが強力になり、コーナーでの立ち上がりは速くなります。
フロア、ディフューザー
最後に、グランドエフェクトの肝となる、フロア形状です。

これまでの結果を振り返る通り、最も最適解の構造をしていたのはレッドブルと考えています。
最大負圧の発生点を2カ所設け、フロントとリア共にグランドエフェクトによるダウンフォースを強力にすることができた。
フロントから流れてきた空気は最初のベンチュリトンネルで使ってしまうので、グランドエフェクトの力はどうしてもフロント側の方が強くなってしまう。
これはレッドブルが前のレギュレーションで採用していた、ハイレーキコンセプトを応用したものと考えます。

大半のチームは最大負圧の発生点をフロアの中心にし、フロア底面積の最低点が長い、いわゆる
”シングルベンチュリ”の形を取っていた。
1カ所にまとめることで、一度に使える空気の量は多いが、フロントとリアで発生するグランドエフェクトのバランスは崩れてしまう。
レッドブルのフロアはフロントのベンチュリトンネルを通過すると、フロア中心部の床面積が高くなっている。
床面積を高くすることで、フロントで使って少なくなってしまった空気を再補填しようという考え方。
そしてリアに流す際には再び多い空気量でリアのベンチュリトンネルを通る。
フロントの方がグランドエフェクトは強いものの、リアはディフューザーを通して負圧を強めバランスを取っている形です。

ところが、昨年はニューウェイの離脱によってマシンバランスが大きく崩れてしまいました。

レッドブルRB20のフロアが起こすアウトウォッシュは強力で、昨年型RB19の弱点であった低速域でもフロアの効果を発揮していたため、欠点の無い最高のマシンになった・・・ように思えました。

しかし、中速域でのパフォーマンスが振るわないという別の弱点が露呈してしまいました。
中速域のパフォーマンスを克服するためにレッドブルはサスセッティングを固くしましたが、今度はタイヤのタレが早くなってしまう、というまた別の欠点が露呈してしまいました。
レッドブルのサスセッティングは柔らかく車高変化に対応できていたはず。
それがニューウェイの離脱により、最適解を理解している者がいなくなってしまった為に迷走を続けてしまったのでしょう。

最後にディフューザーの分析です。
写真はSF-24とRB20のディフューザー形状。
フェラーリのディフューザーは直線的でセンターラインが狭い、しかし、フロアトンネルの面積はレッドブルに比べて広い。
そのため、フェラーリの場合左右のフロアトンネルから流れてくる気流をキックポイント中央に突き出しを付けて仕切っている(走行しているコーナーによって左右で気流の流れが違うため)。
キックポイントが低ければそれだけ負圧が強くなり、ディフューザーの気流流れは速くなる。
しかしダウンフォースが強まり、車高が沈みこむような高速サーキットでは、キックポイントで気流がストールしてしまい、ポーパシングを引き起こしていた。
レッドブルのキックポイント手前側面にはアウトウォッシュを発生させる機構になっている。
これによって、フロアトンネルの左右から流れて来る気流を交わらせることなくキックポイントに流せることができる。
レッドブルのマシンは車高変化に対して柔軟と言われていたのはこれが理由です。
しかし前述通りフロアから流れて来る気流のアウトウォッシュが強力すぎたため、ディフューザーだけでは対応できないものになってしまいました。
ディフューザー出口にも違いが出ており、フェラーリは外側に向けて細い窪みが設けられている。
アウトウォッシュ促進が狙いでしょうが、直線的に抜けていこうとしている気流を邪魔している。
対してレッドブルは直線方向に小さなくぼみを設けた。
小さなくぼみは低圧部分になり、高圧部分の気流を引き抜いている。
その為ディフューザー内の気流は加速し、よりダウンフォースを生み出している。

しかし、フェラーリSF-24はイタリアグランプリでディフューザーのキックポイント中央の突き出しの高さを上げ、最低部を船頭型に変えてきた。
底部が上がったことで、仕切りの代わりに左右に2つこぶを付け対応。
これにより、フェラーリはディフューザーの底打ちによるポーパシングは改善し、パフォーマンス向上。
昨年は最後までコンストラクター争いに絡んでいくことができました。
以上で3回に渡って投稿した現行レギュレーションのマシン分析を終了します。
あれだけ有利に進めていたレッドブルが、一気にひっくり返されてしまった昨シーズン。
レッドブルは何か手を打たないと昨年よりも悲惨なシーズンになってしまいます。
2月14日にいよいよウィリアムズが10チーム中一番最初のマシンお披露目となっています。
現行レギュレーション最終年、各チームどんなマシンを登場させて来るのでしょうか?
他の分析については以下から。
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