リアダウンフォースをより強く、ウイングとディフューザーと排気の関係性

メカニズム(空力学・自動車構造)

新年最初の自動車イベントオートサロンが終了し、いよいよ本格的なモータースポーツシーズン開幕まで秒読み段階に入っていきました。

しかし、まだオフシーズンではあるので、せっかくなら今シーズンもよりマシンを分析しながら楽しく観たい。

そこで今回はマシン構造によるリアダウンフォースとの関係性について考えてみました。

初心者にも分かりやすい説明を心掛けていきますので、最後までお付き合い頂けると幸いです。

リアウイングの存在意義とは?

皆さんはリアウイングというものについてどうお考えですか?

リアウイングの存在意義を知らない方からすれば、単に羽が付いている、格好いいといったドレスアップ的なものと捉えている方も多いのではないでしょうか?

勿論車を作っているメーカーからすればそんな安易な発想ではなく、考えられて作られています。

速度域による抗力の違い。市販車を例に空気の働き方を見ていきましょう。 – アルボンノート

以前こちらの投稿でも触れましたが、フロントとリアとでは受ける空気抵抗の量が違い、ダウンフォースの量にも前後で差が出てきてしまいます。

これを圧力勾配と言いより車を速く走らせるためには、マシンの前後のダウンフォース量が重要になります。

特にリアにおいては空気抵抗が殆どなく、空気による力が働いていない状態”死水域”です。

そこで、リアウイングの登場です。

ルーフ(天井)から流れてきた気流をウイングにぶつけることでダウンフォースを得ます。

ルーフから流れてくる気流を抑えつけるためには、ウイングの高さも重要です。

低すぎるとルーフから流れてきた気流をウイングにぶつけることができずダウンフォース発生には至りません。

但し、ウイングを高く設置するということはそれだけ前面投影面積が増えることを意味しているので、ドラッグはその分増えます。

ウイングの位置を低くしたいのであれば、ルーフにボルテックスジェネレーターを付けることで、ルーフの気流を下向きに無理矢理変えてやることで、相乗効果が期待できます。

ウイング位置が高いとそれだけステー(接続部)の剛性確保の面も考えなくてはいけません。

剛性が無いと、前後左右に揺れてしまい、高速域で思い通りのダウンフォースを得られなくなってしまいます。

そうするとリアの安定化に繋がりません。

リアウイングのフラップについてはF1のマシンセッティングで解説していますが、フラップ角度によってダウンフォース量は変化しています。

角度が強くなれば強くなるほど、気流の失速が多くなり、フロア下部との圧力差を生じさせてダウンフォースを発生させています。

スーパーカー等に取り付けられているリアウイングにはDRS機能が付いたものもあるようです。

ダウンフォース発生の為のマフラーの正しい位置とは?

では次にマフラーの位置について考えてみましょう。

大抵普通の車の場合、マフラーの位置は低く、フロアの下からエキゾーストパイプが這っているような作りです。

マフラーから流れ出てくるのはエンジンからの排気。

エンジンからの排気は温度が高い、温度の高い空気は密度が低い。

密度の低い空気は運動エネルギーが少なく気流の流れが遅い。

ディフューザーが付いている車の場合、マフラーの取付位置が低いとそのディフューザーの働きを邪魔することになってしまいます。

どういうことかというと、マフラーの位置が低いことで、ディフューザーの面積を圧迫してしまっていること。

ディフューザーに取れる面積が無いとそもそもフロアから空気を抜き出すことができなくなってしまいます。

次にディフューザーによる速い気流と、排気による遅い気流とがぶつかり合ってしまう可能性があるということです。

ディフューザーの役割はフロア前方の空気を吸い出すことで、フロア内の流速を加速させるためにあるものです。

そうすることで、シャシー上部との圧力差を生み出し、グランドエフェクトによるダウンフォースを発生させているのです。

折角ディフューザーで流速を速くしているのに、マフラーの排気による流れの遅い気流が混ざると意味がなくなってしまうのです。

では、ディフューザーの働きを邪魔しないマフラーの位置とは一体どこが良いのか?

次章で解説していきたいと思います。

ディフューザーをより活かすには

ではディフューザーをより活かすための条件とは一体何か?

モデルカーを使って見ていきましょう。

先ずパガーニのリアから見ていきましょう。

パガーニのマフラーは従来の自動車のマフラー位置とは違い、ウイングの中央部の丸い筒の中に4本出しのマフラーというのがパガーニ車の伝統的な製法。

一般的な市販車と比べて明らかに違う点はマフラーの位置がかなり高いところにあるということです。

こうすることでディフューザーの面積を潰すことなく、しかも排気による高圧の気流がディフューザーから抜けてくる低圧の気流と喧嘩することがありません。

特徴的な造りのように見えますが、速く走らせるという点においては正解だと言えます。

次にポルシェ918スパイダーの例を挙げます。

エンジンカウルのすぐ後ろが筒状になっていますが、918スパイダーの場合これがマフラーに当たります。

原理としては、排気を直接ウイングに吹き付けることでダウンフォースを発生させているのです。

ディフューザーの邪魔をしないどころか、ウイングを通して気流を更に失速させようという、速い車においては正に理想的な構造ではないかと思います。

ラ・フェラーリの場合は上記の2台とは違い、マフラーの位置は低いです。

しかし、一般的な車種に比べてマフラーの位置は高くディフューザーの面積を圧迫しないよう、マフラーはリアの端に置かれた造りになっています。

ディフューザーはセンターラインを通り、左右2カ所から気流を抜く形になっています。

ディフューザー中央部にはクラッシャブルストラクチャー(衝撃吸収構造)が設置されているあたり、F1からインスピレーションを得た造りになっていることが分かります。

次に紹介するのはオートサロンで見てきました、マクラーレンP1GTR。

レーシングカー顔負けの性能を持っているだけあって、構造はかなり複雑です。

マフラーがとんでもない位置から飛び出しています。

しかし、上記の車同様、ディフューザの邪魔をしないよう避けるようにして設置されているのが分かります。

ただ、この車はマフラーの突き出しが右後輪の一カ所のみだったので、左右の気流のバランスというものは正直気になるところではあります。

速い車の全てが同じ造りになっている訳ではありませんが、ディフューザーの働きを少しでも邪魔しないようにマフラーの位置であったり大きさに工夫が見られます。

最後にF1マシンのマフラー(エキゾーストパイプ)の位置を見てみましょう。

こちらはオートサロンに展示されていたハースのマシンVF-23です。

マフラーはディフューザーの上に来ているのが分かります。

市販車に比べディフューザーに取れる面積は明らかに広いですが、基本的な構造としては共通しています。

更に現行F1マシンにはリアウイングの下にビームウイングが付いています。

ビームウイングによる失速に加え、排気ガスによる高圧の相乗効果でディフューザーとの圧力差をより強力にし、より多いダウンフォースを実現させているのです。

結論を申すと、ダウンフォースをより強力に発生させるためには、速い気流と遅い気流を混ぜ合わせてはいけないということです。

車体上部の気流流れは出来るだけ遅く(失速させる)。

フロアを流れる気流は出来るだけ速く(加速させる)。

F1マシンは空力に関して凄まじく考えられている車ですが、箱車であってもこのような鉄則が守られている車はやはり速いです。

今回も読んで頂きありがとうございました。

メカニズムに関しては不定期ですが今後も勉強して、皆様にお届けできればと思っています。

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