今回もプレシーズンテストでのマシンパフォーマンスと構造の分析をしていきます。
前回はフロントを中心に解説していきました。
最も核心に触れていきましたが、大事なのはフロントとリアのダウンフォースレベルのバランスです。
フロアの形状がやはり大事だということは勿論ですが、当然そこだけが全てという訳ではありません。
今回はマシンサイドの気流流れを中心について見ていきたいと思います。
フロントウイング続編
マシンサイドの分析の前に少しだけフロントウイングの分析の続きをしていきたいと思います。
現行レギュレーションにおけるフロントウイングは捻じれ(フレキシブル)機構にすることで、ノーズ下に如何に多くの気流を流し込むかが重要。
本来の仕様方法であった、フラップを立ててダウンフォースを意図的に付けるという手法としては最早使われていません。
そしてもう一つ重要な点として、アウトウォッシュを引き起こして、後方に乱れた気流を送り込まないようになっています。

アウトウォッシュは基本翼端板を中心に引き起こすのですが、現在はマクラーレンが先駆けたフラップ翼端に捲れを設けてアウトウォッシュの発生を一点集中させるという形がトレンド。

メルセデスの翼端を見ていきましょう。
トレンドである捲れは、フラップ3段目・最上段翼端に、捲れは接続された形になっています。
翼端板中央を見てみると、捲れに向かって線が入ったようにフロービズが流れていることが分かります。
翼端板のみで起こせるアウトウォッシュはたかが知れている。
翼端の捲れがアウトウォッシュ発生に如何に貢献しているかが分かるかと思います。
マシンサイドの気流流れ
ではマシンサイドの気流流れについて分析しています。
今年のマシンの多くは、インテークの入口形状がマクラーレンやレッドブルが取り入れてきた、ポッドウイングであったり、アッパーバイト方式を採用しています。
そしてその開口部は狭められ、側面には細く縦長のインテークも設けられている。
何故この方式が適しているのか私なりに考えてみました。

このサイドポッド横のフロービズと言えばレッドブルです。
レッドブルのマシンサイドのフロービズの流れが大変綺麗だと評判です。
今年もアンダーカットに掛けて流れているフロービズは傍から見れば大変綺麗な流れです。

昨年型RB20はインテーク開口部を極端に絞った”ゼロインテーク”で話題を攫いましたが、今年はその開口部をさらに絞ってきた。
側面の縦長のインテーク形状は今年も継続。
これで冷却は大丈夫なのか?
私の見解ではこれは冷却というより空力優先な形を取っていると考えます。
開口部を絞ることで、低圧を発生させインテークに向かう気流の流速を上げる。
インテーク周辺の気流は圧力が高いので、低圧部のインテークに向かって気流を押し出す。
開口部の面積は狭いので、取り込める気流の量には限りがありますが、インテークに向かって流れてきた気流にはスピードが乗っている。
スピードが乗った気流はサイドポッドに這うようにして流れて行く。
サイドポッドインテークだけで気流を抑えるだけでは限界があるので、縦長のインテークで気流を引っ張り、マシン側面にも気流を這わせようとしています。
その証拠に写真を見てみるとアンダーカットだけではなく、縦長のインテークの側面にもフロービズが付着していることが分かる。

かつてレッドブルが採用していた”アンダーバイト”方式だと、高さの関係上フロントウイングから跳ね上げられる気流を抑えるにも限度がある。
しかも、現在の”アッパーバイト”の様に跳ね上げられた気流をインテーク開口部に向けて低圧を発生させて引っ張ることができなかった。
しかし前述通り、インテークを絞るということは、それだけ冷却を犠牲にしていることを意味している。
ではその分をどこで補っているのか?

そうです、インダクションポッドです。
インダクションポッドの開口部を大きく取り、センタークーリングによって冷却を促す。

マクラーレンもインダクションポッドを昨年よりも大型化させており、センタークーリングによる冷却を中心としている。

マクラーレンのサイドポッドインテーク開口部はレッドブルに比べかなり広く、下に伸びている部分も縦長ではない。
マクラーレンの場合は、空力的利用というよりも、冷却を優先させた形となっています。
メルセデス製PUは余程冷却が苦手なのか?
サイドポッド後端。
続いてサイドポッド後部の分析です。

昨年はウィリアムズがスライダー形状を設けてこちらも話題になりました。
私は急激に下げることで、流速を速めて、ドラッグ削減を狙っていると考えました。
しかし調べていくとスライダー形状による利点はもう一つあり、スライダー形状の採用はビームウイングに向けて流すことが目的。
ビームウイングに気流を当てることで、マシン上部の失速を促しディフューザー効率の向上を狙ったもの。

ウィリアムズのビームウイングの使い方は他のチームとは違う特殊な使い方で、ロワフラップを思い切り立てて壁にぶつけるようにして使う。
しかしウィリアムズは、ディフューザーの設計に自由度が無く、車高を極限まで下げていたためストールを起こし、リアの不安定化を招く原因の一つとなってしまっていました。
サイドポッド後端に話を戻します。
多くのチームがレッドブルのような緩やかに下げられている形状を使用していますが、一部のチームに特殊な形状が採用されています。

ザウバーです。
ザウバーは、サイドポッド後端のアンダーカット部分を絞っています。

絞り込まれている部分を見てみると、フロービズがその凹んだ部分に届いていないことが分かります。
ここには死水域が発生しているのか?(空気が働いていない領域)
こうすることで、アンダーカットから流れる気流とフロアエッジから流れる気流の干渉を防いでいるのでは?とも考えます。
サイドポッド上部とアンダーカットの気流、フロアエッジからの気流という流速も方向も違う3つの流れが互いに干渉してしまうとリアセクションに流れる気流が乱れてしまう。
特にリアの挙動に不安を抱えていたザウバーはこうすることで、リアの安定化を狙っていると考えます。

メルセデスにも採用されているこの形状は今後も注目です。
形を見る限りではメルセデスの方が抉れが強烈の様に見えます。

レッドブルのサイドポッド後端の流れは三ヶ所に分離し、そのままアンダーカットを流れる気流。
アンダーカット上部に向かって這うように流れる気流。
フロアエッジに向かって流れる気流と干渉しないように気流を流しています。
今回はサイドポッド周辺の気流に着眼して分析をしていきました。
トレンドを追従しているチームが大半ですが、ここへきて革新的なデザインを採用しているチームもあります。
この違ったアプローチが吉と出るか、凶と出るかはシーズン開幕してから分かることでしょう。
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