シーズン開幕前から話題を呼んでいる2026年の新規定PU。
その胸中の中心にいるのはF1ファンなら言わずもがな、そうメルセデスとレッドブルの圧縮比トリックです。
今回はその圧縮トリックは如何にして実現されたのか?
というのを推測の範囲で紐解いてみたいと思います。
そもそも圧縮比トリックはどのように実現されるか?

規則で冷間状態の圧縮比を16:1に制限する中、メルセデス(とRed Bull)は熱膨張を活かして走行時の圧縮比を18:1近くを実現。
詳細は、エンジン部品(ピストンやシリンダーヘッド、燃焼室関連部品)の材料を、熱膨張率が高い材料を、熱膨張率が高い合金や特殊素材で設計。

静止時の測定では圧縮比が規定通りの16:1ですが、稼働時(高温時)に部品が膨張し、燃焼室の容量が減少し、実質的な圧縮比が17~18:1まで圧縮比が上昇することになります。
これにより燃焼圧力が増大し、ICEの出力が向上。持続可能燃料の特性を最大限に生かすことができる。
更にこの圧縮比トリックのメリットは、高圧縮により熱効率が高まり、燃料消費を抑えつつパワーを稼ぐことができることです。
ただし燃料マッピング、燃焼タイミング調整によってノッキング(異常燃焼)を防ぐ対策を取る必要があります。
ではこの圧縮比トリックの謎の正体は、熱膨張であることは分かった。
その圧縮比トリックを実現しているのは形状によるものなのか?
それとも材質的なものなのか?
次項で紐解いてみたいと思います。
トリックは材質、形状によるものか?
という見出しを付けてみましたが、私の持論としては上記のトリックの仕組みから、この圧縮比トリックは使用している材質によるものと推測しています。

PUに使用されている材質については前回のフェラーリの鋼合金製シリンダーヘッドの項でも触れています。
下記のリンクを参照にしてください。
アルミニウム合金VS鋼合金、フェラーリの2026年PUから考察。 – アルボンノート
この項ではアルミニウム合金は熱膨張率・熱伝導性が優れている材質と紹介しました。
アルミニウム合金の熱膨張はトップクラスと話しましたが、どのくらいなのか?
高い順ランキング(熱膨張が多い金属トップ10)
| 順位 | 金属/合金 | 線熱膨張係数 (×10⁻⁶ /℃) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1 | アルミニウム (Al, 純) | 23.1 ∼ 23.6 | 最も一般的で高い |
| 2 | アルミニウム合金 | 22.0 ∼ 24.0 | 航空・構造材 |
| 3 | 亜鉛 (Zn) | 30.2 | 最高クラスの一つ |
| 4 | 鉛 (Pb) | 28.9 | 柔らかい金属 |
| 5 | マグネシウム (Mg) | 26.0 | 軽量金属 |
| 6 | 銅 (Cu, 純) | 16.5 ∼ 17.0 | 導電性が高い |
| 7 | 黄銅 (Brass) | 18.0 ∼ 19.0 | Cu-Zn合金 |
| 8 | 青銅 (Bronze) | 18.0 | Cu-Sn合金 |
| 9 | ステンレス鋼 (Austenitic, e.g. 304) | 17.2 ∼ 18.0 | 耐食性が高い |
| 10 | 銀 (Ag) | 19.5 | 貴金属 |
そうです、純アルミニウムは全元素中最高の熱膨張です。
前述の圧縮比トリックの仕組みを考えると、使われている材質は上記の熱膨張が多い材質で間違いないはずです。
熱膨張が高い材質を使うことで、ピストンの膨張で僅か0.5mmの変化で圧縮比を2:1分変化させられる。
このことからもアルミニウム合金の変種や添加剤を使ったものが想定されます。
前回フェラーリが鋼合金のシリンダーヘッドを使用していると説明しましたが、鋼の熱膨張はアルミニウムの熱膨張に到底及ばず、材質の熱膨張を利用した圧縮比トリックの使用はまずできません。
その代わり、鋼合金を使用することで得られる燃焼効率の向上や、材質特有の耐久性を活かすという対抗策を取ってきています。
アルミニウム合金は鋼合金とは逆で、高温下での強度が不足しているため、純アルミニウム合金のみの使用は考えづらいです。
そこで候補として上がるのがバイメタル材料。
バイメタル材料とは熱膨張係数(CTE)の異なる2種類の材質を貼り合わせた複合材料です(合金とは違う)。
温度変化により一方の金属がより大きく膨張・収縮するため、材料全体が曲がる(バイメタル効果)特性を持つ。
貼り合わせる材質の基本としては、主に鉄系(低CTE)とアルミニウムや銅系(高CTE)の組み合わせが一般的で、強度・耐食性・熱伝導を向上させるために使用されます。
燃焼室内でピストンを膨張させてより高圧縮を実現する。
そんな線も考えられると思います。
圧縮比トリックの欠点
約10~15馬力ほどの出力アップにより、0.3~0.4秒ほどのアドバンテージを得ることができる圧縮比トリック。
しかしメリットだけではありません。
デメリットは以下の通りです。
- 前述通り高圧縮により、燃料マッピングと燃焼タイミングを調整しないとノッキングを起こすリスク有。
- 高温時の使用でアルミニウム合金は変形・軟化のリスクがあり、特にピストンにおける場合は圧縮漏れによるパワーロス、最悪の場合はエンジンブローのリスクもあります。
- そしてこの圧縮比トリックに納得しない他の競合メーカー(フェラーリ・アウディ・ホンダ)が抗議、これにより圧縮比測定方法の変更が検討されていますが、2026年前半の規則変更は難しく、2027年以降の規則変更が現実的とされています。
- 更にこの圧縮比トリックの実現には特殊材料の開発・テストが必要とされており、エンジンホモロゲーション(3月1日)後、修正が制限されます。
フェラーリの鋼合金の際にも触れましたが、プレシーズンテストでは兎に角壊れないことが大事です。


因みに通常のピストンとF1用ピストンの比較写真です。

通常ピストンと比べて、F1用ピストンはかなりピストンヘッドが薄いことが分かります。
これによって燃焼室内の総面積を確保しているはずです。
以上が圧縮比トリックの分析になります。
重ね重ねになりますが、テストでは兎に角信頼性勝負です。


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