イギリスGPをもって3連戦が終了しました。
リアルタイムで視聴された方、大変お疲れさまでした。
カナダ以降急速にマシンの戦闘力を伸ばしてきたメルセデス。
マクラーレンは今シーズンもアップデートを通じて順当に戦力を付け、レッドブルに肉薄する機会が増えてきました。
レッドブルはニューウェイの離脱が余程痛手の様で、ペレスが全く乗りこなせていません。
フェルスタッペンが一人で戦うような状況が増えてきました。
この3チームはこの3週間でトップチームの地位を固いものにしています。
しかし、カナダ以降全く元気がなくなってしまったのはフェラーリです。
アップデートを通じてマシンをより機能させるどころか、ドライバーにとって更に難しいマシンになってしまっている。
これでは寧ろダウングレードというべきです。
このままではトップ4の座も危うくなってきてしまう。
今回は何故フェラーリが急に失速したのか、その原因について考えてみたいと思います。
新型フロアは失敗か?
スペインでフェラーリは大型アップデートを敢行。
その一つとして注目されたのがフロアです。
厳密に言うと変更が加えられたのはフロアフェンスです。
一番内側のフェンスに変更を加えました。
内側フェンスの上部はより突き出し、渦の発生地点を速めた。
渦の発生を速めたことで、トンネルに向けて確実に空気を流す、勿論これは単純にトンネルを通る気流の量を増やすという目的でもある。
しかしフェラーリの場合、フェンスが低い為感度が高いです。
ダウンフォース量が多いの確かなのですが、問題は感度の高さです。
感度が高すぎるためダウンフォース量の調整、コントロールが利かないのです。
低速域でもダウンフォースが機能するので速いのですが、高速域では逆に過敏すぎて、ダウンフォース量が多くなりすぎてしまい、ポーパシングを引き起こしてしまいます。
結局高速サーキットでポーパシングが起きてしまうため、フェラーリはイギリスGPで新型フロアの仕様を途中で断念。
今後はサーキットに応じて使い分けるとの報道がありますが・・・このアップデートは一体何だったのでしょう?実に勿体ない。
リアサスペンションに問題あり
続いてリアサスペンションに着手してみましょう。
フェラーリのリアサスペンションはドライブシャフトとロワアームが一体化になってしまっています。
これによりアームが太くなってしまい、かえってドラッグ増加の原因になってしまっている。
PUのパワーはフェラーリが最も高いはずなのに、何故かストレートは伸びない、上記の構造が原因だからです。
他のチームのリアサスペンションも見ていきましょう。
メルセデス
メルセデスはフェラーリと同じリアはプルロッドを採用。
ロワアームとドライブシャフトは若干太いですが、フェラーリと違って分離しています。
レッドブル
レッドブルは上記の2チームとは異なりプッシュロッドを採用。
アーム類の配置は全体的にスッキリとしており、余計なドラッグを生み出さない形状。
プッシュロッドにしたことで、ディフューザーの面積確保に余裕ができる。
フェラーリのリアサスペンションは前年同様プルロッドを採用。
プルロッドの利点は引張方向の力のみを考えれば良く、ロッドの強度がプッシュロッドに比べれば必要としないので、その分ロッドを細くできる。
重量削減に加え空力的に有利であることを意味します。
しかし、そのプルロッドをリアで採用すると、ディフューザー面積を圧迫する原因なので、グランドエフェクトによるリアダウンフォース効率は悪くなります。
リアダウンフォースはとても敏感で、少しでもダウンフォースが多くなると、すぐにサスペンションが縮んでしまいます。
結果的に縮んだサスペンションにより車高が下がり、狭いディフューザー部分の気流はあっという間にストール、ポーパシングの発生原因の一つになってしまっていたわけです。
マクラーレンの場合です。
マクラーレンのリアサスペンションはレッドブルと同じプルロッドです。
写真はマイアミGPで入ったフロアアップデートです。
ディフューザーの捲れを増やしました、捲れが増えたことで気流が上昇するラインが減少、これにより低速域でもディフューザーを機能させられるようになりました。
元々高速コーナーのパフォーマンスが高かったマクラーレンですが、低速コーナーでもパフォーマンスが発揮できるようになったのもトップ争いができるようになった秘訣です。
これはマクラーレンのリアサスペンションがプッシュロッドだったからできることであって、ディフューザーに取れる面積の少ないプルロッドでは不可能な構造です。
そしてレッドブル、マクラーレン、メルセデスのリアサスペンションを見ていて気になったことが一つ。
サスペンショントリックの様な機構が付いているのが分かるかと思います。
レッドブルとマクラーレンの場合、エンジンカウルにダクトが付いており、そのダクトからの気流が直接その部分に吹き付けられる位置にあるので、それでダウンフォースを稼いでいたのかもしれません。
これは個人的意見ですが、メルセデスは以前コースによってはポーパシングしていたのですが、ここでは敢えてダウンフォース効率を悪くすることで、ポーパシングを抑えているのでしょうか?
これがどんな効果を発揮するかは今後も調査を続けていきたいと思います。
リアセクションに対する考え方とは?
ポーパシング、ボトミングが起こる主な原因は、やはりリアセクションのセッティング、気流の流し方にあると思います。
リアセクションの空気はどうするのが正しいのか?
私なりに考えてみました。
私の考えは、リアダウンフォースが過敏なら、リアセクションの気流を速くしてしまえばいいのではないか、と考えます。
現行マシンの主なダウンフォースの発生源は車体上部と底部(フロア)との圧力差を生じさせることで発生させるグランドエフェクト。
フロントはそもそもダウンフォースが無いと応答性が悪くなり、コーナリングで話になりません。
なので無論フロントダウンフォースは必須です。
しかし、リアに関しては、トラクションの掛かりさえよければ良いので、フロントほどダウンフォースは必要ありません。
寧ろ多すぎるとサスペンションが直ぐに縮み、フロアと路面の隙間が無くなり気流がストールし、ボトミングの原因になります。
結局何が言いたいのかというと、フロントの圧力は強めに、リアは若干弱めに・・・
つまり、圧力勾配を付けることが望ましいのでは?ということです。
市販車の場合もやはり最初に空気がぶつかるのはフロントなので、フロントの圧力がどうしても強くなります。
F1マシンの場合はダウンフォースを最も多く発生させることができるフロントウイングが付いていますので、フロントの圧力は市販車とは比べものにならないくらい強いです。
リアダウンフォースも必要ですが、バランスを取ろうと多めに付けようとするからおかしくなるのです。
車高が低くサスセッティングが硬いチームがそれをやろうとすると、リアダウンフォースが強すぎてサスペンションが少し縮んだだけで、ストールが起きてしまうのです。
しかし、だからと言って削り過ぎるとダウンフォース不足でタイヤの摩耗を早めるので、最適なセッティングをシミュレーター等を通して見つける必要があります。
速度域による抗力の違い。市販車を例に空気の働き方を見ていきましょう。 – アルボンノート (albonnote.com)
圧力勾配については以前こちらで触れているので是非参考にしてみて下さい。
そんな中で、私が理想ではないかと考える形に最も近いチームがあります。
メルセデスです。
メルセデスのエンジンカウルはリアセクションに向かえば向かうほど絞られた形になっている。
当初はこれだけ削っていると、ダウンフォースが不足してリアが不安定になるのではないか?と考えました。
確かに実際、開幕当初はリアが暴れ、ドライバビリティがかなり低いマシンでした。
しかし、フロントウイングやサスペンションの改善を通して今やかなり高いパフォーマンスを発揮しています。
今回はフェラーリの不調をマシン構造を通して分析していきました。
一言で言えるのは、やはりアップデート失敗は痛いです。
他のチームは速くなっているのに自分たちは足踏みをしている訳ですから。
アップデートで大事なのはお金ではない、少ない金額でいかに効率の良いアップデートを見つけるか、です。
今回のマシンアップデート失敗によって、フェラーリでテクニカルディレクターを務めてきたエンリコ・カーディルが更迭されました。
まぁ・・・フェラーリに関して言えばマシンアップデートの失敗だけではないんですがね・・・
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