過去の投稿でBMWの市販車の設計コンセプトについて触れていきましたが、その際にエンジンのような重量物をなるべく車体の中心に配置する”マスの集中化”
によってハンドリング性能を向上させているとお話ししました。
BMWが取っているコンセプトのように重量配分や重量物の配置によって車の動きは、全然違ってきます。
これまで触れてきたのはシャシーの形状によって空力は違ってくる、構造による空力効果の発生の仕方の違いを説明してきました。
今回はエンジン構造においてオイルの循環方式の違いによって、車から引き出せるパフォーマンスがガラッと変わってくるということについて触れていきたいと思います。
もちろん今回もノートを使って(笑)
ウェットサンプ
まず紹介するのは
ウェットサンプ
と呼ばれるエンジンオイルの循環方式です。
レシプロ式内燃機関の循環方式の一種で、エンジンのオイルパンからオイルを強制回収するポンプとそのオイルを貯めるリザーバタンクを持つものを言います。
ウェットサンプは主に一般の市販車に採用されている循環方式です。
メリット
- パーツが少なく、パーツ交換に大きな手間を取らない
- オイル交換が楽
このような場合、大抵オイルパンのドレンボルトを抜けばオイルを抜くことができます。
あとはオイルが抜けきるまで待てばいいので楽でしょう。
これを可能にしているのは、部品手数が少ないということに尽きます。
ドライサンプの場合、ウェットサンプのようなオイルパンを持っておらず(持っている車種もある)
専用のオイルタンクを有しています。
因みにBMWのオイルパンを留めているドレンボルトはアルミニウムです。
こういったところにも軽量化を徹底して行おうというあたり流石だな、と感じます。
もちろんそれだけを狙っている訳ではないと思いますが。
デメリット
- オイルの回収量が安定しない
- 横Gによりオイル圧送が安定しない
ウェットサンプ方式では、ベアリング等に供給されたオイルは自重によってエンジン下のオイルパンに戻り、それをフィードポンプが再び摺動部に供給されます。
オイルはエンジン内部で自然落下するので、エンジンコンディションによってオイルの回収量が安定しないことがあります。
又オイルパンの形状は垂直方向に浅い皿のような形状のため、運転中に掛かる横Gによって、オイルが傾くことによってフィードポンプが空気を噛んでしまい、圧送が安定しません。
オイルの供給量が安定しないとエンジンが持つ本来の性能を引き出すことが難しくなります。
それだけでなくエンジンオイルは潤滑油の役割も果たしているので、必要な部分にオイルが行き届かないということは、部品同士がお互い干渉しあい、エンジン自体を傷つけてしまうリスクもあります。
とはいってもウェットサンプで挙げた欠点は基本的にスポーツ走行をしない限り発生しない欠点なので、普段乗りで走る分には気にする必要はないでしょう。
レーシングエンジンにはドライサンプ
続いてドライサンプについての説明に入っていきますが
そもそもドライサンプ方式とは
エンジンコンディションの安定のためオイル圧を安定させることを目的にしています。
主にレーシングカーや高性能車(スポーツカー)等の安全マージンが少ない車種が対象になります。
当然F1マシンもドライサンプ方式を採用しています。
メリット
- 横G受けても安定したオイルの供給が可能
- オイルタンク容量を大きくすることが容易
- エンジンの取り付け位置を下げられる
ウェットサンプの場合、オイルパンに溜まったオイルをストレーナーで強制的に吸い出すことで巡回させていますが、横Gが掛かった際にオイルパンに溜まったオイルが傾いてしまい、ストレーナーが空気も吸ってしまい圧送が安定しなくなります。
ドライサンプは専用のオイルタンクからオイルを吸い出しているので、横Gが掛かっても安定したオイル供給がなされる前提のエンジン設計が可能です。
自然落下したオイルはスカベンジポンプによって回収され、再びオイルタンクに戻ってくるのでオイルが不足するといったこともありません。
こうして安定したオイル供給がなされることで、エンジンは安定したパフォーマンスを引き出すことができます。
ドライサンプ方式であれば、上記のように、スカベンジポンプが落下したオイルを回収してくれるため、オイルパンがなくても問題ありません。
オイルパンが無いのでその分エンジンの搭載位置を低くできます。
速い車を作る大前提としてエンジンなどの重量物は、出来るだけ車体の中心かつ低い位置に置くことです。
特に低重心化は空力を安定させるという大きなメリットを持っています。
デメリット
- 部品点数が多くなり高額
- オイル漏れ等のトラブルの可能性が高まる
ウェットサンプとの一番の大きな違いはオイルを循環させるために必要な部品点数の多さです。
ウェットサンプにはなかった専用のオイルタンクがドライサンプ方式のものにはついています。
重量配分的なメリットがあるものの、専用のオイルタンクを取り付けるにはやはり部品点数が多くなってしまいます。
部品点数が多く狭いエンジンルームに配置しているので構造が複雑になってしまい、それに伴って外部に露出したオイルライン、フィっティング部からのオイル漏れ等のトラブル確率が高くなってしまいます。
ドライサンプはどうしてもコストがかかり、一般的な市販車での採用は厳しいのです。
ドライサンプ方式が採用されている市販車
因みにドライサンプ方式の車には
- ウェットサンプ方式と同等の容積を持ったオイルパンを使用しその中にスカベンジポンプを内蔵したタイプ
- 専用の殆ど容量の無いオイルパンを使用し、外部にスカベンジポンプを内蔵した
の2種類が存在します。
先ほど、ドライサンプは、レーシングカーや高性能車に採用されているといいましたが、例を挙げると
フェラーリやポルシェの量産車などです。
中にはオイルパン部分にタンクを設置し自由落下によるオイル回収とスカベンジポンプによる強制的なオイル回収を併有させた
セミドライサンプ
と呼ばれる方式もあり
水冷化以降のポルシェ911(993以降)・ボクスター・ケイマン
日産GT-RやレクサスIS-F等にも採用されています。
私自身、エンジンのサイクルや構造について少しは勉強してきましたが
オイルの循環方式の違いによってパフォーマンスが丸っきり違ってくるということを知った時には驚きました。
エンジンパワーや重量の違いで速さが変わるのは常識だとは思いますが、
エンジンの配置場所によっても速さが変わってきたりするので、自動車というジャンルは奥が深いと感じます。
モータースポーツには、普段車に乗っているだけでは分からない世界があるということを感じていただけたのではないでしょうか?
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