番外編、市販車から見る空力に拘ったメーカー、無頓着なメーカーの違い(後編)

市販車分析

前回はフロント周りを中心に見ていきました。

空力に拘りを持って車作りをしているメーカーのフロントボンネットにはSダクトが付いており、F1からの技術をしっかりフィードバックしている。

エンジンの搭載位置は、できるだけ車体の中心に近づけることが基本。

いわゆる”フロントミッドエンジン”であると説明させて頂きました。

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今回は、タイヤ周辺(車の側面部分)の空力処理とリアの構造についてみていきたいと思います。

タイヤ周辺のボディワーク

今回見ていくのはタイヤ周辺のボディワークです。

市販車の場合、フォーミュラカーのようなオープンホイールとは違い、タイヤをボディで覆われているのが基本的な形です。

オープンホイールの場合、走行風をもろに受けてしまうので、空気抵抗を非常に多く受けてしまうことになります。

市販車の場合はボディで覆われているのでオープンホイールよりも空気抵抗は明らかに少なくなります。

しかし、ホイールハウス(タイヤとボディの隙間)に空気が大量に流れ込んでしまいます(青く囲った部分)。

この部分の空気を逃がしてやらないと、ホイールハウスに溜まった空気が高圧になってしまい、最悪の場合浮力が発生してしまい、コントロールができなくなる可能性があります。

ではどうしてやればよいのか?

フェンダーダクトを付けてやればいいのです。(赤矢印)

フェンダーダクトを付けることによってホイールハウス内に溜まった空気を逃がしてやることができます。

上の写真はアストンマーティンDBSスーパーレジェ―ラのサイドになります。

アストンマーティンの車種の多くはこのような形をしたフェンダーダクトが設けられています。

フェンダーダクトの面積は比較的広く、吐出口が3カ所の仕切り状に分かれています。

フェラーリ・ポルトフィーノMのフェンダーダクトです。

先ほどのアストンマーティンと比べるとフェンダーダクトの面積は狭いです。

しかしこの狙いは、気流を抜く量は少ないですが吐出口の面積を狭めることによって抜けていく空気がより低圧になります。

低圧にすることにより気流の流れが速くなり、側面を流れる気流を阻害しないようにしています。

マクラーレンはドア側面にフェンダーダクトが付いています。(青矢印)

マクラーレンに至ってはタイヤの上にもフェンダーダクトが設けられています。

特にマクラーレンのボディ側面の空力処理はF1並みの複雑さです。

ボディ側面にはF1のサイドポッドについているようなスライダー形状になっておりここに気流を沿うように流し、インテークに向けて気流を送り込みます。

こちらはマセラティMC20の側面構造。

マクラーレンと同じドアの側面についていますがマクラーレンより広いフェンダーダクトを付けています。

よく見るとフェンダーダクトはメッシュ構造になっています。

色々な形のフェンダーダクトを見てきましたが、大事なのは車の側面の空気の当て方です。

フェンダーダクトで空気を抜いても、側面に流れる気流を邪魔していてはリアの空気を乱す原因になり意味を成さなくなります。

ましてやフェンダーダクトに溜まっていた空気は高圧なので、側面を流れる速い気流(低圧)とぶつかることで、空気をより乱してしまいます。

リア構造

最後の注目点として挙げるのはリアの構造です。

リアといえばディフューザーですが、メーカーによってついている車種と付いていない車種がくっきりと分かれていました。

先ずはアストンマーティンから見ていきましょう。

アストンマーティンDBSスーパーレジェ―ラとDB12の2台です。

DB12は今年発売されたDBシリーズの最新モデルです。

この2台のリアを見てどう感じますでしょうか?

天井には多くの車種で採用されているボルテックスジェネレーターは付いていません。

ボルテックスジェネレーターを付けることで天井の気流を捻じ曲げて、リアに向けて気流を流すという働きがあります。

詳細はこちらの投稿を見ていただけると良いと思います。

速度域による抗力の違い。市販車を例に空気の働き方を見ていきましょう。 – アルボンノート (albonnote.com)

ディフューザーも付いていません。

あくまでも気流を真っすぐに流し空気抵抗をできるだけ少なくしようというのがアストンマーティンの考えかも知れません。

続いてマクラーレンを見ていきましょう。

こちらはマクラーレンの最新車種750sのリアです。

隙間からはギアボックスが顔を覗かせています。

マクラーレン750sのエンジンとギアボックスは縦置きになっています。(多気筒エンジンの場合は大抵このレイアウト)

縦置きエンジンの場合、横置きに比べると車体左右のバランスが取りやすい。

本来FRの場合エンジンから駆動輪までの距離が長い為パワーロスが生じてしまいますが、マクラーレンはMRレイアウトなのでこちらの欠点は当てはまりません。

しかしプロペラシャフトをフロア下から通しているので、こういったタイプの車はどうしても居住性は悪くなってしまいます。

エンジンはできる限り車体の中央かつ低くと言いましたが、この場合だとディフューザーの面積を狭めている形になっているのでそこのバランスも考えて車作りをしなくてはいけません。

リアの端にはディフューザーが付いていますが、センターラインは至ってシンプルな形になっています。

マクラーレンのリアイングは先代の720sと比較してウイングフラップの面積を20%拡大しダウンフォースを更に増すことに成功。

可変式のリアウイングなので、走行状況に応じてダウンフォースの量を変化させることができます。

因みに今回はスーパーカーの外観の写真を撮りに来ている方が殆どでしたが、私の様に内部構造の写真を撮っている方は見かけませんでした。(笑)

最後にフェラーリのリアを見ていきましょう。

まず見ていただくのはF12ベルネリッタ。

ディフューザーは確かについていますが、フィンが小さく、フェイクディフューザーに近いような形です。

しかし、トランクから伸びてきているフィンがセンターラインと端とを区別しているような作りです。

こちらはSF90ストラダーレのリア周りです。

フィンが先ほどよりも長くなり、よりディフューザーによるダウンフォース生成に拘った造りになっています。

気になったのは、フィンに穴が開いていることです。

ディフューザーで空気を抜きつつ、面積を確保することでより多くの空気を抜くことが目的なのでしょうか?

今回見てきた中で一番強烈だったのが、前回の投稿でも紹介した812コンペティツィオーネです。

先ほどまで紹介してきた車種のディフューザーと比べても明らかにフィンの大きさが違う。

まるでレーシングカーのようなディフューザーです。

リアコーナーにもタイヤに溜まった高圧を抜くフェンダーダクトが付いている。

フィンの配置も複雑さを増しています。

気になったのはフィンに付いている切り欠きです。

フィンの配置的にアウトウォッシュを発生させて抜きを良くしているのだと思います。

今回も市販車の空力について触れていきました。

個人的に感じたのは、フェラーリとマクラーレンは長年F1に関わってきているだけあって、市販車にも技術をしっかりとフィードバックしているという感じでした。

空力にそれほど拘っていないメーカーもあったとは言え、スーパーカーは空力について考えられていなければ、あれだけのハイパフォーマンスを実現することができないはずです。

今の時代は、燃費など拘りを持っている方が多くいらっしゃるはずですが、それを左右しているのは間違いなく空力です。

空力について詳しくなっておくことは決して損にはならないと思っています。

今週末はいよいよアメリカGPです。

番外編の投稿はあと一つ予定しています。

今回も読んで頂き大変ありがとうございました。

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