速度域による抗力の違い。市販車を例に空気の働き方を見ていきましょう。

メカニズム(空力学・自動車構造)

前回の投稿では市販車を中心にCD値(抗力係数)について説明しました。

車選びの際には、荷物の積載量であったり、乗車定員、燃費などは気にするけど他の数値は気にしない。という方は多いのではないでしょうか。

ですがCD値(抗力係数)は、燃費性能など車選びの際に気にする重要な要素と深く関りを持っているのです。

CD値が低ければ低いほど空力特性が優秀、燃費も良く少ないエンジンパワーで済むということはご理解頂けたかと思います。

今回はどのような速度の時にどのような力が働いて、またその力がどのくらい強く働くのか、ということについてご説明をしたいと思います。

速度による空気の流れの違い

今回はノートのイラストで空気の流れを説明していきたいと思います。

サイト名がアルボンノートなのでたまにはノートを使わせて頂きます。(笑)

低速域

低速域では、空気抵抗が少ないので車の前後での圧力差もまだ少ないです。

圧力差が少ないのでリア側に流れていった空気もボディに沿うように流れています。

(リアを通過後に剥離)

中速域

中速域では、低速域に比べると空気抵抗は大きくなりました。

ここからフロントとリアとの圧力差が少しずつ開いてきており、リアに流れた空気はボディから剥離し始めます。

高速域

高速域では、空気抵抗が中速域に比べて増し、フロントとリアとでの圧力差が更に広がっています。

リアに到達した気流はボディ表面に一切這おうとせず、完全に剥離してしまっています。

圧力勾配と死水域

どの速度域にも共通して言えることは、空気抵抗を受けるボディ前面部の空気の流れはボディに沿っていますが、リアウインドウから後ろでは、ボディに沿って流れておらず空気が剥離しています。

このように車の前後で圧力差が発生している状態を

圧力勾配といいます。

この時の空気の働きを例えると物が上から下に落ちるような働きをします。

フロントとリアでダウンフォースに差があるのは、この圧力勾配による影響のためです。

そしてリアのすぐ後ろでは剥離を起こした流れの下流域で渦を巻いている領域があります。

この領域は死水域と呼ばれ

この領域では殆ど空気が運動をしておらず負圧となっています。

写真を見て頂くと分かるかと思いますが、速度域が高くなれば高くなるほど、フロントとリアの圧力差が増していくので、死水域が発生している範囲が大きくなっていきます。

ボディ形状による空気抵抗の違い

クーペ

写真を見て頂ければ分かると思いますが、この3つの形の中では最も空力的に優れた形状で、剥離点を最も後ろに持っていくために、ルーフ以降は緩やかに下っていくような形状になっています。

セダン

ルーフの少し後ろに剥離点があります。ルーフの後ろのガラス部分若干斜め下を向くような形状になっているため、途中までは空気の流れがそうものの、その途中で空気が剥離してしまいます。

ハッチバック・ワゴン

この形状になってくると、ルーフより後ろはほぼ垂直のような形状になってくるため、ルーフの後端が剥離点となります。

車の天井の上についているあれは・・・?

車の天井上についているあの部品は一体何なのか?(写真の赤丸部分)

気になった方は沢山いるはずです。

ウルトラマン?中にアンテナが内蔵されている?

違います。

実はあの部品はボルテックスジェネレーター(渦発生装置)というものです。

航空機の技術を流用し、フィンのような突起(F1でもそのようなパーツを見ているはずです)を設けてあります(車種によって有無は違ってきます)。

あえて、小さな渦を発生させることで強力な粘性(ここでは車体に空気をへばりつかせるイメージ)を発生させて、流れを無理矢理曲げています

即ち、小さな損失を発生させることで、大きな損失を抑え込んでいるということです。

ボルテックスジェネレーターによって気流は車体後部を張り付くように流れ、剥離点を後ろに追いやることで、ダウンフォース獲得に貢献していたのです。

空力と引き換えに別の用途を得た車両

ミニバン

見た目通り「箱」の形状をしているので当然空力性能は悪いです。限られているスペースを乗車定員の確保や居住空間に割り当てようとしたとき、おのずと箱型になるのではないでしょうか。

このボディ形状の車種は空力や運転手の為にではなく、同乗者の事を第一に考えた商品性とも言えます。

ラリーカー

ラリーカーは主にWRCというカテゴリーを中心に取り扱われています。WRCでメインに使われる車両はかつてはセダンタイプでしたが、現在では空力的に不利なハッチバックが採用されています。

では何故モータースポーツであるのに空力的に不利なハッチバックが採用されているのか?

WRCでは急旋回が要求されるコーナーが多々あり、小回りやリアのオーバーハング(車重を支えるタイヤの中心から前後の張り出た部分のこと)を短くし、生存性(ラリーではコーナリングの際にドリフトを多用しこの時にリアのオーバーハングが長いと木や岩などの障害物に接触しやすくなるため)を高めるため、空力を犠牲にしてでも安定して速く走ることを選択しています。

前述の説明の通り

車は全てが空力を第一に開発されているわけではないということです。

今回は速度域による空気の働き方の違いについて触れていきましたがいかがだったでしょうか?

速度でも空気の働きは違いますし形状によってもその働きに違いがでてきます。

一日の中で車が通るのを目にしない日はきっとないと思いますが

その際に自分の目の前を通った車がどんな形をしていて、どんな風に空力が働いているのかを考えるのもきっと面白いのではないかと思います。

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