先日行われたマイアミGPはランド・ノリスがセーフティーカーに助けられながらついに初優勝を遂げました。
セーフティーカー解除後のペースが素晴らしく良かった。
元々ドライバースキルが高くいつかは優勝するだろうと目されているドライバーだけに、110戦目での優勝は少し遅かったかな、という印象です。
この優勝で何か変わってくるかもしれない。
ドライバースキルもさることながら、ここ最近のマクラーレンの作るマシンは戦闘力が高く素晴らしい。
私から見た印象は、コーナリングではレッドブルを凌駕するレベルを持った究極のコーナリングマシン。
しかしメルセデスPUということもあってかストレートで伸びずドラッグが多い。
レッドブルを本当の意味で倒すには何か一つ足りなかったというのが感想。
でしたが、このマイアミでは大量アップデートを投入。
この大量アップデートで弱点の一部克服に成功しレッドブル撃破に成功しています。
速いマシンには必ず速い理由がある。
今回はその勝利の要因について探っていきたいと思います。
ロードラッグを意識したアップデート
マクラーレンにとって課題はドラッグ過多によるトップスピードの伸びの悪さ。
もう一つはデグラが酷いというこの2点。
ドラッグ過多を克服するアップデートは先ずフロントウイングから表れています。
ロードラッグ仕様になりました。
フロントウイング先端を低くし、フラップ最上段の面積が広くなっていることが分かります。
フロントウイングとノーズ先端を上手く組み合わせてダウンフォースを発生させているように見えます。
ノーズ先端の突き出しはウィリアムズFW46を思わせる部分があります。
ただ、ウィリアムズの場合はノーズ先端の床面積が狭すぎて、フロア下を通るダウンフォースが全体的に不足しているように感じます。
そして、写真を見ると、ウィリアムズのフロントウイングもロードラッグ仕様になっていることが確認できます。
ウィリアムズの場合、フロントウイングフラップ最上段の面積を削っていることが分かりますでしょうか?
そしてスプリントでのトップスピードですが、驚くことにウィリアムズはダントツトップの361km/hという驚異的な数値をたたき出しています。
確かにマイアミではロングストレートがありストレートのトップスピードは絶対に必要。
しかしウィリアムズは必要以上に削りすぎたため、コーナーが多いセクター1では大きく後れを取る結果になってしまいました。
ロードラッグ化のフロントウイングは他のチームも・・・
アストンマーティンのフロントウイングの比較
マイアミ(上)ジェッダ(下)
明らかにマイアミの方が薄くなっていることが分かります。
更にマイアミのフロントウイングはRB20に近い形になっていることに気付きました。
続いてこちらはザウバーのフロントウイングです。
マイアミ(上)ジェッダ(下)
フロントウイングのフラップ上2枚の形状が違うことに気付くでしょうか?
特に最上段のフラップは中央部のみを削り取った形になりました。
フロアに向けて流す最低限のインウォッシュの分だけ削り取ったのでしょうか?
マクラーレンのマシン分析をしている際に面白い画像を見つけました。
低速区間を通過しているにも関わらずノーズ先端が凹んでいることが分かりました。
ドラッグ削減を意識して意図的に作られたものなのかは分かりませんが、この作り、フェラーリのF1-75に共通しているものがあります。
サイドポッド周辺の変更点
マクラーレンのアップデートのコンセプトはドラッグ削減が第一。
ドラッグを削減できてもダウンフォースまで削り取ってしまっては意味がなくなる。
矛盾していますがF1マシンにおける空力の理想はダウンフォースが多くドラッグが少ないこと。
そんなマクラーレンの工夫がサイドポッドにも表れています。
サイドポッドの下部を若干上に持ち上げたような形になりました。
これによりアンダーカットの面積が若干確保できた。
マクラーレンのサイドポッドは幅が狭い。
そうなるとアンダーカットに流れる気流の量が少なくリアセクションに向けて流れる空気量もまた少ない。
そうなるとフロアのシーリングが甘くなり安定感が無くなる。
結果的にリアダウンフォースが少なくなりデグラが酷くなる原因に繋がっているのではないのか?
というのが私の仮説です。
今回はそれを補うためのアップデートでもあるのではと考えています。
そしてマクラーレンのサイドポッド最大の特徴といえばこのポッドウイング。
メルセデスが昨年型W14に使用していた技術です。
そのメルセデスが捨てた技術をレッドブル(ゼロインテーク)とマクラーレンが上手く利用しています。
ポッドウイングを通してフロントウイングで跳ね上げた気流を抑え、更にダウンウォッシュを促進させる縦渦を発生させている。
ダウンフォース増加と整流による安定化というカナードに近い役割を担っています。
今回マクラーレンが行ったアップデートはこのポッドウイングを前に突き出してきました。
レギュレーションの規定で許される限界まで突き出したことで、フロントウイングで跳ね上げた気流を更に前出で抑えられる。
レッドブルとマクラーレンがこの技術を上手く使い、トップを走り続けている。
メルセデスは本当に勿体ないことをしたと思います。
ポッドウイングの後ろ側に窪みを付けて来ました。
AMR24と似たような機構です。
AMR24の場合はポッドウイングは無い為単にダウンウォッシュを強めるための狙いと考えられますが、マクラーレンの場合はそれに加えてポッドウイングがあるので、ここで縦渦(青線)を作り、窪みに向けて縦渦を流す。
他方向からの気流流れに引っ張られないようにするための狙いか。
いわゆる固定化したいのではないでしょうか?
サイドポッドのアップデートはまだ続きます。
サイドポッド後部のアンダーカットを広げてきました。
側面の面積を削りアンダーカットを外側に張り出す形にしてきました。
こうすることでフロアカーテンの強化が見込めそうです。
写真から分かることはそれだけではありません。
サイドポッドのスライダー形状にも変化を付けて来ました。
旧型はサイドポッドスライダーがコックピットの直ぐ後方から緩やかにスライダーが始まっていますが、新型はサイドポッド後部から一気に落とし込むような形になっています。
ここに関してもウィリアムズのスライダー形状からヒントを得ているのではないかと考えます。
これによりドラッグ削減も期待できるのではないでしょうか?
ここまでサイドポッドの流れについてまとめましたが、空気の流れを可視化したものがこちらになります。
サイドポッドインテークの下部を押し上げ、ポッドウイングを突き出したことでフロントウイングで跳ね上げられた気流をより多く抑える。
旧式ではアンダーカットが狭く、そこに流れる気流の量が少なくシーリングができなかった。
新型でアンダーカットが広くなり、気流の量をより多く確保することができ、シーリングが強化されています。
スライダーをサイドポッド後部で急に落とし込む形にしたことで、ドラッグ削減が見込める。
この写真からは以上のことが分かると思います。
今後が楽しみなチーム
今回のマクラーレンのアップデートはウィリアムズの機構を多く取り入れて弱点を打ち消そうとしたように見える。
確かにダウンフォースが少ない分ロードラッグでストレートの伸びが良いという、マクラーレンとは正反対のマシンパフォーマンスを持つウィリアムズ。
ストレートスピードを伸ばしたいマクラレーンにとってはお手本のようなマシンだったと思います。
昨年のアップデートから感じていましたが、マクラーレンはグリッド上最も戦闘力を伸ばしたチーム。
レッドブルが作り出したトレンドを正確に掴み、確実に前進し続けた。
どこかで勝つのではないかとずっと思い続けていましたが、いいところまで行くけどあと一歩のところでレッドブルに勝てない。
そんな流れが一年近く続いての今回の優勝。
チームにとってはついに念願成就という感じでしょう。
ロン・デニスがチーム代表を務めていた頃は、堅苦しく1-2でフィニッシュしないとデニスが不満そうな顔をするという重苦しい空気チームでした。
しかし、デニスがチームを去り、ノリスがマクラーレンに入るとそのチームの雰囲気は180°逆転。
レース後にはチームから暖かく迎えられ、各チームのドライバーからも称えられ、観客もみんなノリスを祝福する。
きっとノリスの人柄なのでしょう。
そんな映像を見ていてとても暖かい気持ちになりました。
シーズンはまだ前半戦。
マクラーレンはこの先も当然アップデートは入るでしょうし、このマシンはまだまだ伸びしろを感じさせてくれます。
ノリスとピアストリといった技術を持っている若手二人のラインナップ。
この先も本当に楽しみなチームです。
決勝レースについてはこちらを参照
マイアミGP決勝、ノリス待望のF1初優勝!セーフティーカーが分けた明暗 – アルボンノート (albonnote.com)
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