F1に限らず、モータースポーツの世界では、よく耳にするダウンフォースというワード
聞いたことはあっても、スッと説明ができるでしょうか?
私はダウンフォースというワードを一言で、「空気によって路面に押し付ける下向きの力」
人に説明する際には、このような言葉で説明しています。
F1マシン(最低重量798㎏)のダウンフォース量は時速150㎞/hで市販車の重量と同じくらい、最高速のストレートでは車重の3~4倍になり、理論上トンネルを逆さまで走れることは有名な話です。
かたや市販車のダウンフォース量は、多くても数1000㎏に満たない程度だといわれています。(車種、形によって個体差はあります)
市販車のダウンフォースにつきましては、また後日掲載をしたいと思います。
ダウンフォースのメリット
ダウンフォースのメリットはひとえに、コーナリング性能の向上です。
F1チームは少しでもダウンフォースを増やし、マシンを速くするために、空力学の専門家を何人も雇います。
F1マシンにおけるダウンフォースの発生カ所は大きく分けて次の3カ所と考えています。
- フロント(フロントウイング)
- ミッド(コックピット・サイドポッド周辺)
- リア(リアウイング・ディフューザー)
先ずこの中で最も強力なダウンフォースを発生させている場所は”フロント(フロントウイング)”です。
フロントウイングはマシンの中でも一番最初に空気が当たる場所であり、ここでいかにして気流を後ろに流すかによってフロントウイング以降のダウンフォースが全然変わってきます。
マシンの世代や構造、幅などによって気流を外側に逃がすか、インウォッシュを発生させてフロア下に潜り込ませ、グランドエフェクトによるダウンフォース向上を狙う手法もあります。
フロントから流れてきた気流はフロントサスペンションに当たります。
F1の場合サスペンションにはプッシュロッド、プルロッドの2種類が存在しています。
プッシュロッドは、サスペンションとノーズの接触部がどうしても高い位置にあるので空気抵抗(ドラッグ)が多くなってしまう。
プルロッドは、重量物であるサスペンション内部機構がモノコック下側にあるため低重心化できる。
低重心であるということはフロアが路面との距離が近く、シャシー上部との圧力差がより強力になる。
回りまわってダウンフォースを強力にする重要な材料になります。
フロントサスペンションを抜けた気流はサイドポッドに向かうのですが、本来サイドポッドは空力部品ではなく、インテークを通して冷却機構の冷却を目的としたパーツでした。
以前のレギュレーションには”バージボード”というものがあり、このバージボードが強力なダウンウォッシュを生み出してました。
現行のレギュレーションではバージボードは無くなってしまいましたが、サイドポッドが代わりとなってダウンフォースを作るための部品としての役割を務めています。
サイドポッドでダウンウォッシュを作り出す手段として、サイドポッドに前方から後部にかけて下がるように傾斜しているスライダーを設けるのが今のトレンドとなっています。
サイドポッドでダウンウォッシュを作り出された気流はリアウイングやディフューザーがあるリアに流れていき、ディフューザー上面に向かいます。
F1マシンは、市販車と違い複雑な空力パーツがいくつも取り付けられており、ダウンフォースを発生させる仕組みが満載です。
話は逸れますがF1マシンを1台組み立てるのに必要なパーツ数は約14,500個です!!
ですが、これだけ複雑な構造のお陰で、あれだけのコーナリング性能が発揮されるわけです。
もう一つ言わせて頂くと、ステアリング操作が少なくなるので、タイヤに優しいです。
操作を最低限にすることでタイヤに舵角を付けずにいたわることができます。
過去のドライバーで例えさせていただくとマクラーレンやフェラーリで活躍していた”アラン・プロスト”の走法が良い例でしょう。
この走法は”プロスト走法”と呼ばれ、デイモン・ヒル等の多くのドライバーが真似をしました。
正反対の走法は”アイルトン・セナ”で彼は早く走ろうとするためか、ステアリングを激しく切り、タイヤを労わる走りとは到底言えないものです。
現代のF1でも通用しそうなドライバーではないか、というのが自分の意見です。
ダウンフォースの少ないマシンは、コーナリング性能が低くステアリングの舵角が増えてしまうので、結果的にタイヤにかかる負荷が増えてしまいタイヤの持ちが悪くなるというわけです。
ダウンフォースのデメリット
ダウンフォースは速く走るという目的がある分にはメリットがありますが、デメリットの方が多いです。
簡単にまとめると
- 空気抵抗(ドラッグ)が発生する
- 燃費の悪化
- タイヤの異常摩耗
の3点が挙げられます
先ず、空気抵抗の発生についてですが
ダウンフォースの増加に比例して空気抵抗が増えていきます。
空気抵抗が増えると当然ストレートのトップスピードが伸びなくなります。
市販車の場合、時速80㎞/hあたりから空気抵抗が無視できないほどの量になり、時速200㎞/hを超えると、エンジンパワーの殆どが空気抵抗抵抗に打ち勝つために使われてしまいます。
特にF1マシンは市販車と違い、タイヤが剝き出しなので市販車以上に空気抵抗を受けてしまいます。
空気抵抗は少なくしつつ、多くのダウンフォースを生み出す(矛盾してますが)パーツを開発するため、F1チームは空力学者の意見を聞きつつマシン開発をしているのです。
次に、燃費の悪化についてですが
前述の通りダウンフォースは「空気によって路面に押し付ける下向きの力」であり300㎞/h以上出るストレートでは、車重の3~4倍のダウンフォースが発生すると書きました。
つまり、単純に考えると現行のF1マシンの最低重量は798㎏
798㎏×4=3,192㎏
ストレート走行中は約3tの重さがマシンにかかっているわけです。
同じパワー、同じ重さ、同じ位置にエンジンを積んで、車重が1tの車と2tの車があるとしたら
1tの車の方が燃費が良いというのは想像がつくと思います。
最後にタイヤの異常摩耗についてですが
実はダウンフォースは多すぎても問題が発生します。
ダウンフォースの量が多すぎると、タイヤに空気の重みがかかり変形を起こします。
この状態が続くと異常摩耗を起こしタイヤ本来の性能が発揮できなくなり持ちも悪くなります。
例をあげると2022年のメルセデスW13にこの症状が見られました。
ダウンフォースの最大量は間違いなく10チーム中最も多かったと思いますが、ダウンフォースが多すぎたが故に起こった問題でしょう。
F1にとって永遠の課題
ダウンフォースの初歩について説明してきましたが、レギュレーションが変わればマシンも変わり、それと同時にダウンフォースの量も変わります。
何処で、どのくらい、どのようにダウンフォースを発生させたら良いのか、というのはF1チームにとっては永遠の課題なのかもしれません。
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