前回の投稿でグランドエフェクトカーについてお話しさせて頂きました。
現行レギュレーションにおいてグランドエフェクトを利用してダウンフォースを発生させることが最も重要だということは、理解していただけたかと思います。
グランドエフェクトは車高を落とせば落とすほど、フロア部分を流れる流体の面積が狭くなり流速が速くなる。
しかし狭くしすぎると、フロア下を流れる流体が停滞してしまいダウンフォースを失い、ポーパシングが発生する要因だとも説明しました。
グランドエフェクトで発生させるダウンフォースの量には限界があるのか・・・
確かに限界はあるとは思いますが、グランドエフェクトを少しでも強めることは可能です。
今回はグランドエフェクトの効果をより強力にする空力効果を紹介していきたいと思います。
ベンチュリ効果
ベルヌーイの定理に引き続きまた聞き覚えの無い言葉が出てきました。
ベンチュリ効果
ベンチュリ効果とは流体の流れを絞ることによって流速を速めて流速の遅い部分に比べて低い圧力を発生させる仕組みのことを言います。
上の図を使って説明しましょう。
面積の広い1.の部分から2.の部分にかけて流体の流れる面積が狭まっています。
このような構造にすることで、面積の広い部分が狭い部分に向けて流体を押し付けてくれます。
押し付けられた流体は流速が増し、より負圧が強くなります。
前回の投稿で、ダウンフォースを発生させる前提条件としてある程度の空気の量が必要だと説明したのはこれが理由です。
空気の量が少なければ、押し出す力が弱く強力な負圧を発生させることができないという訳です。
最大負圧が発生している2.の部分を通過すると3.の部分では再び広くなっています。
F1マシンで例えると3.はディフーザーに当たる部分です。
面積を広めに取っておかないと流体がキックアップポイント(ディフューザーの境目辺り)で停滞する可能性があり、ディフューザーに向けて空気を流すことができません。
画像はフラットボトム規定に沿って作られたフロアですが、凹凸が一つもない真っ平らなフロア構造なので、フロア下を通る空気の流量、流速は一定で変えることができませんし変わることもありません。
こういった構造になってしまうと、ダウンフォースを作る手段として唯一残る手段は、車高を下げてフロア面積を狭め圧力差を作ること。
フロア面積を部分的に狭めて負圧を強める構造になっているグランドエフェクトを利用したフロアよりもダウンフォースが少ないのは明らかだと思います。
身近に存在していたベンチュリ効果
確かにベンチュリ効果という言葉は全く聞き馴染みが無いと思いますが、実は皆さんの周りにはベンチュリ効果を利用したもの、製品って意外と沢山あるんです。
突然ですがあなたは今、ホースを使って水を撒いているとします。
蛇口を捻らずに水の勢いを強くしたいと思ったらどうすればよいでしょうか?
これは多くの方が経験していると思いますが、指でホースの口を狭めますよね。
そうです。これがまさにベンチュリ効果を使っている証拠です。
ホースの口(排出口)を狭めると、流れてくる水(正圧部分)がホースの口(負圧部分)に向けて水を押し出すことで勢いを強めている訳です。
ベンチュリ効果が使われているのは当然これだけではありません。
霧吹きや液体石鹸、ガソリンスタンドの給油ノズル等もベンチュリ効果を応用したものの一つです。
霧吹きの容器の構造を説明すると
トリガーを引くことで吐出口の弁が開き、液溜まり(正圧)の部分が管(負圧)を通じて吐出口まで押し上げている訳です。
見た感じ吸い上げているという言い方の方がしっくりくると思うかも知れませんが、実際に起きている原理は正圧側が負圧側に押し上げているということになります。
日常生活においても、窓を全開にしている時より隙間風の方が寒く感じるのは、このベンチュリ効果の作用が働いているからだといえます。
F1マシンのフロアで見るベンチュリ構造
ここまではベンチュリ効果について説明してきましたが、実際にF1のフロアはどのようなフロア構造にしているのでしょうか?
フロア規定
当然ですがフロアの構造も自由なサイズに作っていいわけではなく規格が決められています。
2022年から2023にかけて変更されているのでまずはそこからおさらいしていきましょう
フロアの高さが最も低い部分は35mmと規定されていました。
ディフューザーの境目であるキックアップポイントは35mmで長さは350mm
フロントアクスル(前輪車軸)(画像の一番右の赤線)から2000mm(ドライバーの後ろの赤線)の地点のフロア高さは65mm
2023年には、35mm→45mm、65mm→80mmと規定が変更されました。
一つ言えることは、フロアの各部の面積がこれだけ広がるということは、負圧の発生が弱まり、ダウンフォースが減少してしまうということです。
これを踏まえて2チームの例を使って見ていきましょう
フェラーリ SF-23のフロア
トンネル入口の角度は緩くフロア中心部にかけて床面積が狭くなります。
フロア中心の床面積はフラット(平行)で狭い範囲が広く、ディフューザーに向けて緩やかに空気が抜けていく構造になっています。
フェラーリは前年型のF1-75のフロアとフロアコンセプトをほぼ変えませんでした。
一つ言えるのは、以前紹介したロータス78のようなグランドエフェクト創成期に見られる構造です。
最大負圧発生ポイントが中心に集まりすぎている。
この構造なら最大負圧はかなり強いですが、逆に効きすぎてしまっているので、ポーパシングを引き起こす原因にもなっています。
2022年で問題になったポーパシングが2023年になっても未だ解決できていない状況だったのです。
グランドエフェクトを安定させるためには、車高変化によるダウンフォースの変化を小さくする必要があります。
フロアが路面から離れすぎても、近すぎてもいけない。
その対策の一つとして、サスペンションを固くし車高変化を抑えることです。
フェラーリのリアサスペンションは固めに設定していたと思われますがそれが災いし、硬いリアサスペンションは柔軟性が無く路面からの衝撃を吸収できずにスライドが頻発してしまう。
それ故にタイヤが早く摩耗してしまっていたという訳です。
レッドブル RB19のフロア
RB19のフロアも前年型RB18を踏襲したデザインですが、他チームと違い非常に複雑なフロア形状をしています。
レッドブルのフロアはあまりに複雑すぎて、細かく説明するとドン引きしてしまうほど難しい(笑)ので、今回詳細は割愛させて頂きたい思います。
緑色の線が空気の流れとなっているので是非参考にして頂けたらと思います。
まずフェラーリSF-23との大きな違いは
最大負圧が発生する場所が前後の2ヶ所に存在しているということです。
しかも最初の最大負圧発生場所がかなり手前(トンネル入口のすぐ後ろ辺り)です。
ここで作られる速い流れは、フロア内部に進むもの、フロアスリッドに排出されるものの二手に分かれます。
実はフロント側の負圧を強めるコンセプトは以前のレギュレーションから使われていました。
その当時のレッドブルはハイレーキコンセプトを取り入れられており、それが今のマシンに生かされています。
ハイレーキコンセプトはフロアの発生場所によってマシンバランスが敏感に変化しドライバーにとっては運転が難しいものですがこれには見事というより他がありません。
フロント側で空気の力を大量に使うのでリア側の空気の力が弱くなってしまいます。
それを防ぐために、フェンスの一番内側と二番目の空間を大きくすることで空気を確保します。
そしてフロア中心に来ると床面積が広くなり先ほど確保した空気をフロア後部、ディフューザーに向けて流していきます。
私自身レッドブルのフロアを調べて色々分かったのは、フロアの中心部を通る手前でボルテックス(渦)が発生してるということが分かりました。
フロア内を通る際にボルテックス(渦)を発生させて、フロントより空気量が少ないリアのシーリング(フロアの高さが変化しないよう渦を使って抑えている)をしているという訳です。
そしてもう1つの最大負圧発生ポイントがディフューザー手前にあります。
RB19はフロントの方が強いのでリアはボルテックスによるシーリングで安定化を図っていたわけという訳です。
他にもボルテックスが発生してる箇所がありましたが後々触れていきたいと思います。
まとめ
ベンチュリ効果を使った例としてフェラーリのフロアとレッドブルのフロアについて少し詳しく触れました。
40年も前の技術をそのまま使っているフェラーリ
現代の技術に合わせてより複雑化させたレッドブル
どちらが速いかは一目瞭然だと思います。
後半戦でフェラーリはアップデートによってフロア構造を変えましたが既に手遅れでした。
2024年ではこの両チームは全く違うコンセプトをとるという話がでています。
そのコンセプトが成功か失敗かはプレシーズンテストで分かるはずです。
コメント
I like the efforts you have put in this, regards for all the great content.
Thankyou so much.