先日のアメリカのレースではフェラーリがレースペースの良さを活かして、オーストラリア以来の1-2を決めました。
スタートで早々と抜け出し、クリーンエアーで戦えたことが何よりも大きかったと思います。
予想されているストラテジーでは2ストップを推奨されていたものの、新舗装によって1ストップで持ってしまいました。
しかし今回は週末を通してコースアウトやスピンがかなり目立っていました。
特に1コーナーと19コーナーでのスピンが特に目立っていた印象です。
何故スピンが多発してしまったのか?
今回はレーシングラインと縁石の使い方という観点から見ていきたいと思います。
今回はアルボンノートNo.5 ドライビングテクニック、ストラテジー、無線用語
も使って解説していきたいと思います。
そもそも縁石は何のためにあるのか?
皆さんは縁石というものについてどうお考えでしょうか?
コースの幅であったり、コーナーの最も内側を知らせてくれるものと考えられている方も多いのではないでしょうか?
縁石の本来の目的は
- オーバーランに対するドライバーへの警告
- グラベルの芝生やサンドトラップの砂利がコース内に入り込まないようにするためのせき止め
の役割をしています。
せき止めているとは言え、周辺は砂が散らばっており路面グリップが低いです。
付近でアクセルを思い切り開けてトラクションを掛けようとすると、ホイールスピンを起こす危険があります。
なので基本コーナリングの際には縁石を使わないことが望ましいです。
それに現行マシンはグランドエフェクトカーなので、縁石に乗り上げることで、フロアの底面積が変わってしまいます。
それだけでなくフロアの左右で偏りが出てしまい、尚良くないです。
しかし、ドライバーたちを見ていると意図的に縁石に乗り上げているケースがよく見られます。
それはアウト・イン・アウトの原則によるものです。
アウト・イン・アウトはそのコーナーを最短かつ最も早くクリアするために適した理想のラインです。
コーナーをより速くクリアするために、できる限りコーナーのイン側を走り、アウト側一杯に膨らみながらクリアすることが求められます。
特にコーナーに侵入する際の舵角がそれほど鋭角ではない場合や、低速コーナーではそれほどグリップを必要としないため、こういった条件がそろっている時は縁石に乗り上げてクリアした方が圧倒的に速いです。
ただ縁石に乗り上げれば良いという訳ではなく、サスペンションの硬さであったり、セッティングとの兼ね合いで変わってきます。
ライン取りに対する考え方
では次にライン取りに関する考え方です。
では、この話をする前に皆さんは、エイペックスという言葉をご存じでしょうか?
エイペックスとは英語で、”頂点””先端””頂上”の意味であり、レースにおいてはコーナーの内側の頂点を意味します。
基本的にコーナー1つにつき1つのエイペックスが存在しますが、複合コーナーの場合は複数存在することもあります。
似たような意味の言葉で”クリッピングポイント”という言葉がありますが、こちらはマシンが最もイン側に寄った地点の事を指します。
エイペックスには二つの定義があり、”ジオメトリカル・エイペックス”と”レーシング・エイペックス”があります。
ジオメトリカルは”幾何学的”という意味であり、コース形状によって自動的に決まります。
レーシング・エイペックスは路面状況、マシンのポテンシャル、セッティングによって最適なライン取りが変わってきます。
エイペックスによるラインの取り方は
- トラディショナル・エイペックス
- アーリー・エイペックス
- レイト・エイペックス
3種類です。
トラディショナル・エイペックスはレーシング・エイペックスの視点から見たトラディショナル・エイペックスを指します。
位置だけ見ればこの二つは同意義と考えます。
トラディショナル・エイペックスを通過するレーシングラインのことを”トラディショナル・ライン”と言います。
私はこれをアウト・イン・アウトとも同意義と考えています。
なので以下から、トラディショナル・エイペックスは、アウト・イン・アウトとします。
続いてアーリー・エイペックス。
アーリーエイペックスはアウト・イン・アウトよりも早めにターンインを開始します。
アーリー・エイペックスを使用する例として、加速の鈍い車がコーナーを速く走るには、できる限り高いギアでクリアしていく必要があります。
続いてレイト・エイペックスです。
アウト・イン・アウトのラインよりもターンインを遅らせたライン取りを言います。
コーナーを抜けた先にストレートがある場合や、トップスピードを要する場合などは、レイト・エイペックスを使うことで、加速に使える距離を伸ばすことができます。
今回のレースで見る事例
では、今回のミスやスピンの原因を先ほどの縁石の使い方とライン取りで学んだことを踏まえて原因を考えてみましょう。
先ずは1コーナーでのスピン多発。
COTAの1コーナーは他のサーキットと比べ少し特殊で、急こう配な上り坂を登り切り、クリッピングポイントが見えないかなり鋭角なコーナーをフルブレーキングして曲がる低速コーナーです。
ピットレーンと1コーナーの頂点との差は30.9m、傾斜は12.5°という急勾配です。
鋭角なコーナーの為コーナーを脱出する際のトラクションの掛かりは重要です。
下り勾配のブレーキングは、早めにブレーキを踏まないと、マシンバランスを崩しやすいです。
何故ならブレーキングの際はフロント側に荷重移動するからです。
当然上りに比べれば制動距離も長くなります。
上り勾配の場合は、制動距離が短い分、コーナーに対する視認性は悪いです。
ノリスのオンボードを見てみましょう
予選のオンボードです。
ストレートエンドを知らせる50のボードが右側に見えています。
このタイミングでノリスはブレーキング、ブレーキングは遅めです。
エイペックスに向かっています。
ブレーキング位置と侵入舵角からするとレイト・エイペックスです。
1コーナーを抜けると2コーナーに向けてフル加速が必要になるので、このようなライン取りと考えます。
侵入舵角がきついので縁石を使わずギリギリ掠めるようにして抜けていきます。
次のコーナーに向けて加速ですが、早くアクセルを開けすぎると縁石の外にはみだしコースアウトになります。
アウト・イン・アウトの原則で、コース幅を目一杯使う。
ノリスの場合少し内側に入ってしまいましたが、理想に近いコーナリングだったのではないかと思います。
では次に、スピンした場合の失敗例を見ていきましょう。(オンボードではありません)
ラッセルのFP1です。
マシン正面からですが、恐らくかなり奥側のブレーキングとなったラッセル。
オンボードでなくとも分かるくらい内側の縁石からかなり離れてターンインしています。
ブレーキングのタイミングが少しでも遅れると、このようにレーシングラインから外れてしまいます。
レコードラインの外側はラバーが乗っておらず、汚い路面です。
当然グリップも低いです。
レーシングラインから外れ、アンダーステアを引き起こすラッセル。
コーナーを抜けアクセルを開けましたが、汚い路面に足元をすくわれスピン。
今回スピンを喫したドライバーの殆どが同じような形のミスを犯しています。
1コーナーでタイムロスをした分を取り返そうと、アクセルを早く勢い良く開けたことによる焦りも作用していると考えます。
今回の決勝で角田も1コーナーでスピンしましたが、上記のような理由と考えて良いと思います。
ガスリーを抜きに掛かろうとしてレイトブレーキングを仕掛けましたが、外に膨らんでしまい何とか付いていこうとアクセルを勢いよく開けたことが原因でしょう。
19コーナーのスピンについてです。
19コーナーはやや高速コーナー、しかしこちらも若干上り気味でクリッピングポイントの位置が分かりづらいコーナーです。
縁石はあくまでクリッピングポイントを示す目安。
高速域で縁石を使うのは非常にリスキーな選択です。
今回もラッセルの事例です(予選)。
19コーナーもブレーキングのタイミングが遅くなるとエイペックスに付くことができず縁石の外にコースアウトしてしまいます。
バランスを崩してのスピンを犯す危険性もあります。
こちらは1コーナーの時と違い、縁石ギリギリを掠めるようにターンイン。
アクセルを早く開けすぎると外に膨らんでコースアウトします。
ラッセルのステアリングが外側を向いているのにお気づきでしょうか?
リアのグリップが限界を迎えてしまいマシンはスピン。
ラッセルは直ぐにカウンターを当てていますがどうすることもできません。
その後ウォールにクラッシュ。
先述の通りレーシングエイペックスはマシンの特性やセッティングによって変わってくると話しました。
メルセデスの場合硬いサスセッティングによって横の動きに耐えられなかったと考えられます。
これ以外にもアルボンがスピンを喫していましたが、ウィリアムズのサスセッティングにも同様の事が言えるでしょう。
今回はアメリカGPで起きたミスから、縁石の使い方やライン取りについて考えてみました。
オンボード映像を見ていて、どうしてそんなライン取りをするのか?と疑問に思われたりする方もいらっしゃったのではないかと思います。
しかし、それにはマシンの特性やセッティング上の関係であったり、路面状況、温度の関係もあり、理想的なライン取りがそれによって変わってくるということをご理解いただけたのではないかと思います。
アメリカGP決勝リポートはこちらから。
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